34.大騒ぎ
王都にある、イスフィール家の本家に到着した。
ミランダさんにお願いされた通り、お風呂の用意をしているといつの間にか、たくさんの婦人が集まっていた。
「若返るんですの⁉」
「入りたいですわ!!」
「えっと……」
彼女たちはミランダさんが呼んだらしく、全員が目を輝かせていた。
(そういえば、前にレーモンさんが冷たい飲み物もあったら良いかも、って言ってたっけ)
お風呂に上がりに合う物かぁ。水……いや、牛乳かな?
それも用意しておこう。
準備を整え、入浴している間に冷えた牛乳を数本ほど用意した。
しばらくして、彼女たちは入浴を終えたようで、どうやら満足したみたいだ。
「最高!! なんですのあのお風呂⁉ 見てくださいこの肌~! 私若返ったみたいですの~!」
「ほっほっほ、私は十代に戻った気分ですわ」
「はぁぁんっ……気持ちよかったですわぁ……」
バスタオルで身を包んでいる彼女たちに、準備していた牛乳を手渡す。
「どうぞ、これが合うんじゃないかなと思って用意しました」
「おぉ!! 冷えた牛乳ね⁉ でも、本当はお酒とかが良いんだけど……」
お風呂上りにお酒は身体に悪いですから、と言うと納得して受け取ってくれた。
ミランダが豪快に一本飲み干す。
「ゴクッゴクッゴクッ……ぷはぁっ! これはこれで最高ね!!」
「私も欲しいですわ~」
「ズルいですの~!」
甘い声で言う婦人たち。
色気に溢れた更衣室を後にしようとすると、俺に婦人たちが詰め寄ってくる。
「アルトさんって言うのよね? 名前覚えたわ……! 本当に気持ちよかったですわ! またお願いできますこと?」
「ねぇねぇ本当にこのお風呂に入るだけで肌がピチピチよ⁉ これヤバいですわ!!」
「夫に『お前は老けたな』って言われたのですの!! これでぎゃふんと言わせてやれますわよ~!」
まぁまぁと宥めて、その場を離れようとする。
ちょっと男が混ざるにはマズい場所な気がしていた。
すると、ミランダが割って入ってくれた。
「皆さん、お待ちなさい。アルトくんが困ってるじゃない。もう、ちょっとは貴族としての礼節を持ちなさい」
真剣な面持ちで、貴族の婦人たちを静かにさせた。
「ミランダ様が……」
「珍しく……」
「まともなことをおっしゃられておりますね……」
ちょっと不安になるような言葉が聞こえてくる。
ミランダさん、普段はどんな人なんだろう……。
「じゃあアルトくん? 魔道具の話は追々するとして……今はもっと詳しく、このお風呂について語り合うわよ?」
「えっ」
ミランダが振り返って、俺に迫ってくる。
婦人たちもそれに便乗していた。
「あ、あの……っ!」
「アルトさん、逃がしませんことよ?」
「ふふふ……」
目が本気だ!
この場から急いで離れないと、何が起こるか分かったものではない気がした。
「お、俺はこれで……!!」
飛び出すように逃げ出す。
*
追手は……流石に居ないか。
ふぅ、と息を吐くと声がかけられた。
「アルト様、今お時間よろしいでしょうか」
「テットさん! どうしたんですか?」
「アルト様の【洗濯】について、ここにいるメイドたちが是非見たいと言い出しておりまして」
「えぇ、構いませんよ」
既に後ろにメイドたちが居て、ソワソワとしていた。
今度はフレイの声がした。
「アルトくん! 来てるって聞いたから俺の魔法騎士学園のクラスメイトを連れて来たんだ! 君の居合の技を見せてくれないか?」
「え……」
「アルトよ! ほっほっほ、王都のベッド職人を連れて来たぞ。ぜひあのベッドを作ってくれぬか!!」
三方向から囲まれるように人が集まってくる。
テット、フレイ、レーモンが睨み合うように腕を組んでいた。
「……フレイ様。アルト様を誘った我々が先です」
「何を言ってるんだテット? 親友の俺が優先だろ?」
「ふむ……アルトは儂と話したいと言っとるがのぉ」
「わ、分かりましたから皆さん! 喧嘩はやめてください……っ」
遠目で、ウルクが静かにその光景を眺めていた。
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