31.孤児院のために
ウルクと一緒に孤児院に足を運んで、客室に座る。
向かい側に褐色肌で黒髪の美女が居た。
彼女はダークエルフのラクスだ。
この孤児院でシスターをやっていると言う。ウルクとは顔見知りで、すぐに話を通してくれた。
「急に来てすみません。ラクスさん」
「構いませんよ。アルトさん、で良いでしょうか?」
頷いて答える。
おっとりとした口調で、シスター姿に大きめの胸が印象的だ。
「ウルクさんもお久しぶりです。いつも薬草採取の依頼を受けていただいて、感謝しています」
「いや、私が好きでやっていることなんだ。あまり気にしないでくれ」
二人は顔見知りらしく、ここにウルクがいるのも俺を紹介してくれるとのことだった。
「……アルトさんのお話は常々、とても凄い方だと聞いています。今回はどのような件で?」
「はい。実はお風呂を軸にした商売を考えていまして、この孤児院で作られているポーションを使えたらな、と」
包み隠さず事情を話すと、驚いたように目を見開いて声を漏らした。
「私の孤児院のポーションを……?」
「はい。少しでも役に立てたらな、と思いまして」
聞いたところ、孤児院の生活は厳しく月の生活費を稼ぐだけでも手一杯と言っていた。
ウルクが気に掛けるのも何となくわかる。
「それにラクスさんの作るポーションは、普通の物よりも効果が高いんです」
「……あれの効果が、分かるんですか?」
「えっ……普通に分かると思いますけど……」
匂いだって濃いし、品質としては最高級と言っても過言ではないと思う。
その確認も込めて、俺はこの場に足を運んでいた。
「普通の人には分からないと思うのですが……」
「ポーションの匂いくらいは、毎日飲んでたら判断できるようになると思いますけど」
「「……?」」
お互いに首を傾げる。
(ラクスさんは何を言っているんだろう)
と俺が思うのと同様に、ラクスも同じように思っているように見える。
「え? アルトさん、今毎日飲んでって言いました?」
「毎日飲んでましたけど……変ですか?」
「へ……変どころか危険です!! ポーションは疲労回復と怪我の治癒の目的で飲むんですよ⁉ 平常で毎日も飲んでたら、身体に耐性が付いて効き難くなったり、ポーション中毒になる危険性だってあるんですよ⁉」
あっそういえば、そんなの聞いたことがある。
ポーション中毒になると急性的に心臓の鼓動が早くなって、死に至る病気だっけ。
前の職場、ウェンティの所で働いていた頃はそんなの考えてる余裕はなかったしなぁ。
毎日一本は必ず飲んでた。元気が出るから。
「あぁ……耐性が付いたから効果がなくなったんですね……」
突然、俺はポーションの効果を体が受け付けなくなった。
それからは本当に辛かった。
寝ても疲れは取れない、元気にならない。
でも頑張らなくちゃいけない。
「……まぁ、昔のことですから。今は飲みませんし、問題ないですよ」
「……ウルクさん、アルトさんをもっとちゃんと面倒見てあげてください。この子、あまりにも危険ですよ」
「分かってる。私がちゃんとアルトの面倒は見る」
そんなやんちゃな子、みたいな扱いされても……。
苦笑いして、話を続ける。
「でも、あれだけの高質なポーションをなぜ安価で売っているんですか? もう少し高値で売れば、孤児院の生活も楽になるかと思いますけど」
「……私はダークエルフですから、商人に作る物が汚れていると言われてしまうんです」
「なっ! ラクスは汚れてなんていないだろ⁉ ここの孤児院をでた者はみな、情に厚く優しい者たちばかりだ!」
「……ですが、私がダークエルフですから」
ダークエルフと言うだけで差別される場所もあるんだ。
でもこの孤児院では、心が豊かで明るい子たちを育てているのだろう。
実際、この孤児院は古く、建物に歴史を感じるものだった。
でも、室内は清潔でちゃんと手入れされていて、大切にされているのだと思う。
すると、快活な声が響いた。
「シスター! お腹空いた~!」
「今日は何作るの?」
黒髪で、十代くらいの顔が瓜二つの子どもが二人いた。
客室に入ってきて、ラクスに飛びつく。
「もう。サラ、ネア? 今はお客さんがいらっしゃってるんですよ?」
「でも我慢できないよ~」
「そういえば、部屋が雨漏りしてたよ?」
「あら……それは大変」
微笑みながら、ラクスが向き直る。
「すみません……孤児院は見ての通り古いですから、雨漏りもします。建て直すお金もありません。ですが、それでも子どもたちをきちんと育てたいんです。人間が大好きですから」
人間が大好き。
その言葉に、嘘は感じられない。
本当にそう言っているんだ。
一人で孤児院を守り、子どもを育てる。
容易なことではない。
なんとか、助けてあげたい……。
「アルト……」
ウルクもそう思ったようで、俺と見合った。
(大丈夫、最初からそのつもりだよ)
「……ラクスさん、俺にも手助けさせてください」
「え? 手助け?」
「はい。まず、俺の作ったお風呂に入ってみませんか? それからやるかどうか決めて欲しいんです」
ラクスの反応が楽しみではあるが、絶対にやりたいと言ってもらうには体験してもらった方が早い気がする。
孤児院の子どもたちを集めて、お風呂に入ることになった。
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