25.作戦会議


 暗黒バッタの大群のある近くで、野営地が用意されていた。日は落ち掛け、夜になりそうだ。


 作戦を確認するために歩いていると、イスフィール家のみんなが居た。


「フレイ! 魔鉱石は揃った?」

「アルトくん、用意はできてるよ」


 そこには大量の魔鉱石があった。


 フレイには早い段階から話していて、作戦に参加して欲しいと頼んでいた。快く受け入れてくれてた。

 こうして作戦の話をしようと思ったら、近くにレーモンとテットが居た。


「儂らもおるのじゃがなぁ」

「レーモンさんにテットさんまで! 来てくれたんですか!」

「はい。アルト様、助太刀に参りました」

「ほっほっほ、若いのが頑張っとるのに年寄りが見てるだけってのは寂しいじゃろ?」

「心強いです! ありがとうございます!」


 この二人が元高ランク冒険者だという話をウルクから聞いていた。

 だから来てくれると凄く嬉しいと純粋に思っていた。


 フレイが俺に耳打ちしてくる。


「実は、レーモンおじいちゃん。何か儂にも手伝えることはないかーってずーっと言っててね。もう年寄りなんだからって言っても聞かなかったんだ。今回も勝手に出てきちゃって……」

「こらフレイ! 聞こえておるぞ! 儂だって、少しくらい力になりたいと思うじゃろ。ふんっ」

「アハハ……本当に頼りにしてます」


 やっぱりレーモンさんは良い人だ。

 

「わたくしも居ますのよ。アルト様」


 レアの声がした。

 オリハルコン製の防具に名高い鍛冶師が作ったであろう豪華絢爛な武器を持っている。


「この第四王女、ドラッド・レア。アルト様のお助けをするために最強装備を持ってきました」

「あ、暗黒バッタ相手にそれはやりすぎじゃ……」

「いいえ! アルト様の前で大活躍……いやいや、女として、常に全力でアタックすることを心掛けているのですから、当然のことです!」


 本当に戦えるのだろうか、と少し心配だった。

 でも、俺がレアを魔物から救ってから、自分の身は自分で守れるようにと剣術を覚えたらしい。

 

「……いや、絶対やり過ぎだと思うのじゃが? レア王女殿下よ」

「おじい様、レアに何を言っても聞きませんよ。そうだろ? アルト」

「まぁ、安全に越したことはないよ。何が起こるか分からないからさ」


 後からウルクがやってくる。

 実際、この討伐戦に言うほど危険はない。

 だから、低ランク帯の冒険者がみんな参加してる。


 比較的報酬がよく、やることが単純だから割のいい仕事に間違いなかった。


 その中でも、一番歴があり、冒険者ギルドでも信頼されている【蒼穹の剣】がこちらを見てヒソヒソと話している。


「ねぇ……アルトくんって実は貴族の息子かな? めちゃくちゃ凄い人たちに囲まれてない?」


 とティアが言う。


「顔が良いから好かれてんだよ。へへ、俺には分かるぜ」

「はぁ⁉ ヒューイは馬鹿なんじゃないの? アルトくんは顔じゃなくて性格だから」

「二人とも馬鹿だ。アルトは顔でも性格でもないぞ。魔法の才能だ」


 淡々とした口調でブラドが言う。

 しかし、三人の主張がぶつかり合う。


「性格!」

「顔だ!」

「才能だぞ!」


 俺は静かに顔を背ける。


(……見てないフリしておこう)


 そこに呆れた様子のぺタスが割り込み、話を終わらせる。


「まったく、騒いでねえで働けお前ら!」


 ケツを叩かれ、【蒼穹の剣】が散っていく。

 

「すまねえ、騒がせたな。作戦会議中だったか?」

「いえ、これからですよ」

「じゃあ始めるとしよう……王女殿下? なんでそんな国宝級の装備してるんですか?」


 そりゃそうだよね。気になるよね。

 どこか戦争でもするのかって顔するよね。


 流石に話が進まないから、無理やり始めることにした。


「ごほんっ! ……今回の作戦は陽動と奇襲部隊の二つがあります」


 一度説明しているが、確認のために話す。

 

 俺の話が始まった瞬間、その場にいる全員の顔つきが変わる。

 

「まず、陽動部隊の人には攻撃魔法で穴を作ってもらい、そこに小麦、砕いた魔鉱石を入れてもらいます。できるだけ深く、それを三か所に用意します」


 魔鉱石は加工がしやすい鉱石で、簡単に手で砕くこともできる。小麦に振りかければ、それだけで効果があることは検証済みだ。


 これは暗黒バッタの大群を分散させる狙いがあった。

 アイツらは匂いで餌を感知することができる。小麦の匂いで餌場まで釣る。


 まずは女王バッタからできるだけ数を減らし、防御力を低くさせる狙いだ。


「アルト様が単身で突っ込んで、女王バッタの首を討ちとれば良いのではありませんか?」

「……ちょっと暗黒バッタの数が多すぎるんですよね。あと……正直言ってあの数はトラウマになります」

「と、トラウマ……そのレベルだったのですね。失言でした」

「いえいえ、実際、それを実行するための陽動ですから」


 バッタの数が減れば、奇襲部隊が横から攻める。


「奇襲メンバーは少数で、罠を仕掛けた後は餌に掛からなかった暗黒バッタの撃退。街に行かせないように倒してください。剣や攻撃魔法なら通じます」

「持久戦かの……」


 餌に掛かった暗黒バッタは魔鉱石で死ぬ。そっちは問題ない。

 俺の隣に立ち、フレイが自身のことを指さす。


「で、アルトくんに指定された俺が陽動部隊の指揮官って訳。三か所の情報をここで常に把握する役割だよ」

「儂とぺタス……それとテットで三か所の現場をそれぞれ持てば良いと言う訳か」

「ごめんなさい、御三方には負担をかけます」

「良い良い。久々の戦場じゃ、燃えるのぉ」

「構わねえぜ、それくらい簡単な仕事さ」

「お任せを」


 歴戦の三人が現場の指揮を執れば、何かあっても対応できるだろう。

 それにフレイは騎士学校で指揮術を学んだと言っていた。統率役にはもってこいだ。


 これなら俺は安心して、女王バッタを狩りに行ける。


「そして、俺が奇襲部隊を率います」

「うむ! 頼んだぞ」

「アルトくんなら、安心して任せられるね」


 ウルクとレアも参加する予定だ。

 経験を積みたいのだと言われたら、断れるはずもない。

 成長したいって言ってる人を手助けするのも大事だと思う。


 話すことは全て話した。

 

「では、作戦開始です!」


 

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