23.黄金バッタ


「い、一号が……輝いてる!」


 部屋中に輝きを放ち、見てくれと言わんばかりに輝く一号が虫籠に居た。  

 外もかなり暗くなり始めていたから、余計に眩しいし。


 少し見てないだけで……立派に成長したな一号……。

 って違う!

  

 なんで⁉ なんで黄金に輝いているんだ⁉


 一号の世話を任せたウルクとレアを見ると、そっぽを向いて視線を合わせてくれない。


「あ、あの……何があったの?」


 恐る恐る聞くと、人差し指でお互いを指す。

 

「「この人がやりました」」

 

 そっか……そっか……! 二人が、やったのか……。

 

「く、詳しく教えてくれない?」

「……わたくしが、金塊を少し食べさせてみようと与えて見たのです。すると、暗黒バッタの外殻が変色したのです」

「それで私が……もっと食べさせたら変化するんじゃないかって」


 素直に話した二人は、俺の方を見て頭を下げた。


「アルト様ごめんなさい! 勝手に変化させちゃって……」

「すまない……面白がって変なことをしてしまった」


 俺はそんな二人へ対して、思わず飛びついてしまった。

 謝る必要なんかどこにあるんだ。それよりも、これは俺も見つけられなかったこと。


「あ、アルト様⁉」

「凄いよ! 二人とも! 本当に凄い!」

「アルト……怒ってないのか?」

「怒るはずないだろ! ありがとう、ウルク、レア。これは大きな進歩だよ!」


 そう言うとほっとしたのかレアがポロポロと泣きだしてしまう。

 えぇ⁉ 変な事言ったか⁉


「アルト様の、本当の意味で力になれたような気がして……わたくし、嬉しくて……」


 あ、あぁそういうこと……本当にレア王女殿下は良い子だなぁ。俺も、誰かのために役立てると凄く嬉しいし。


「レア王女殿下にはいつも助かっていますから、あまり泣かないでください」

「ひぐっ……で、でしたら……頭ポンポンって、やってください……そしたら、泣き止むかもしれません」


 それくらいお安い御用です。と言ってアルトがレアの頭を撫でてあげた。

 アルトからは見えない位置で、ウルクは見えてしまった。


 レアが全く泣いている様子のない顔つきで、声だけで泣いている演技しているのだ。


「えへ、えへへ……あっ、ひぐっ! ひぐっ……えへへ」


 アルトはウソ泣きであるとは気づいていない。


(れ、レア……なんとあざとい女だ……)


 ウルクはわざと大きく咳をして、微笑んだ。


「アルト、コイツが変化するまでの過程をメモしておいた。使ってくれ」

「そこまでやってくれたのか……ありがとう」


 俺に研究ノートを渡してくれる。


 そこには黄金に変化した一号が羽ばたくと金粉が舞うこと、金塊以外を食べなくなったこと。

 様々なことが書かれていた。


 ・金塊を食べる。


 これはどの本にも書いていなかったことだ。


 考えても見れば、暗黒バッタは何でも食べるんだったら、その可能性はあったんだ。


 金塊……もしかすれば、食べる鉱石によってそれぞれ違う特性がでるんじゃないか?

 無数の可能性が暗黒バッタにはあるような気がした。


 よし、大きな進歩だ!


 進化の過程で、暗黒バッタに有効な毒を見つけられるかもしれないし!


「そういえば、アルトの方はどうだったんだ?」 

「俺の方は数匹捕まえて来たのと、暗黒バッタの女王に遭ったよ」

「……本当に居たのか」


 ジャイアント・ベアを討伐後、その肉を食べて休憩していた。俺の生い立ちや【疾駆】が風魔法の応用で編み出した魔法であること。


 雑談をしていると、暗黒バッタが現れた。


 予想されていた距離よりも、大群の移動は早かった。

 【蒼穹の剣】のみんなには逃げてもらって、俺は中心部へ突っ込んで、奴と出会った。


「暗黒バッタの女王は……大きな魔物だった」

「な、なに……?」

「大人が数人分くらいの巨体で、白いバッタだったから分かりやすかったんだ。俺が敵意を向けた瞬間に暗黒バッタたちが一斉に攻撃を仕掛けて来た」


 数万匹もの大群が俺に向かって飛んで来るのは……あれはちょっとトラウマかもしれない。

 思い出して身震いする。


「流石に逃げて来たけどね。でも、操っていたことは確かだ。現に女王を守るように襲って来たしね」

「……確かに、魔物は人間を襲う。凄いな……そんなの初めて知ったぞ」


 今日は多くの発見があった。

 女王バッタに黄金バッタ……今、命名した。

 

 調べることはたくさんある。


「あと、ギルドマスターに伝えたけど……暗黒バッタの群れがフィレンツェ街に到着するのは一週間後じゃない。三日後だ」


 あの距離とあの速度だったら、俺が計算した日数が正しいと踏んだ。

 実際に見て確かめたんだ。間違いじゃない。


「な、なんだと⁉ それじゃあ間に合わないじゃないか!!」

「大丈夫。ギルドマスターのぺタスさんに話したら、先遣隊を出してレモン水で足止めするらしいから。二日……時間稼ぎできるかどうか……」


 俺の魔力を込めたレモン水はさっきギルドに寄ってもう作って来た。

 一気に作ったら驚いてたなぁ……。


『どんだけ魔力あるんだ⁉ ちょ、倒れるなよ⁉』

『大丈夫です! じゃんじゃん水持ってきてください! それに、ぺタスさんも人のこと言えないじゃないですか。何個か簡易ベッドも作っていくので、大黒鳥(クロオバード)の羽をお願いできますか?』

『マジか⁉ よっしゃぁぁぁ! 今すぐ持ってくる!』


 きっと、他の冒険者たちもしばらくは野外での活動になる。その時を考えたら、少しでも疲れがとれるようにしてあげたい。


 今日の出来事を思い返し、一息つく。

 

 残り五日。

 あまり猶予はない。

 きっと、黄金バッタが大きな足掛かりとなるはずだ。


 そう思い、アルトは研究を再開し始めた。


「よし、頑張ろう!」


 ウルクとレアは喜んで手伝って────四日が経過した。


 その結果、数種類の特性を持った暗黒バッタを作ることができた。

 そして、ドラッド王国が長年苦しめられてきた暗黒バッタへの有効打を、発見した。

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