20.蒼穹の剣
「まっこんなもんよ。ヘへっ」
比較的弱い魔物を討伐し、護衛役の冒険者ヒューイが鼻を高くした。
彼は三十代後半と言ったところだろう。
「お見事です」
拍手を送った。
実際、剣筋は悪くないし魔物のことを知りつくているからか、動きに無駄もない。
熟練冒険者というのも納得だ。
「アルトさん、あんまりヒューイを褒めんといてください。コイツ、すぐ調子に乗るんですよ」
「いえいえ! 凄いと思ったことはちゃんと言わないと、伝わらないですから」
そう言うと、俺の隣に眼鏡をかけた男性が立つ。
「アルト、それでもヒューイを褒めると……」
「よし! 次の魔物も狩りに────あだっ! いっつぅ……んだよこの木ぃ!」
「ほら、こうなるのだ」
ちょっと口調が訛っている女性がティア。
冷静に物事を分析する男性のブラド。
冒険者ギルドへ向かうと、暗黒バッタの対策の依頼がたくさんあった。そんな中、酷く疲れた様子のギルドマスターのぺタスと出会い、事情を説明すると三人の熟練冒険者を見繕ってくれた。
それが彼ら、【蒼穹の剣】だ。
なんと、十年近くもパーティーを組んでいるというのだから驚きだ。
その連携は目を見張るものがあるし、お互いの足りていない部分を補っている良いパーティーだった。
「でも、本当に魔物多いね~。馬車の道中だけで二十体。暗黒バッタの近くに来た時に数えるのやめちゃったよ~」
「仕方あるまい。暗黒バッタが通った後は何も残らん。魔物たちも流石に学習するだろうさ」
「移動速度はそれほど早くないはずなんですが……やっぱり量が多いからですかね」
「暗黒バッタなんか、俺が全部倒してやるよ! おら! 掛かって来い!」
ぶつかった木に八つ当たりしているヒューイに苦笑いを送る。
元気な人だ。
「あ、アハハ……」
「こういう奴なんですよねぇ……酒癖も悪いし」
ティアが困った表情を作る。
憎みきれない感じの人なんだろうなぁ。何となく、二人から好かれている気配がするし。
すると、ヒューイの後ろから唐突に大きな影が出現する。
「ちょっ! ヒューイ後ろ!」
「ふぇ?」
「ジャイアント・ベアだ!! ヒューイ逃げろ!」
ここからでは誰も援護に間に合わない。
ヒューイの胴体に二本の鉤爪が襲いかかる。
「やべえっ!!」
不意打ちに対応できず、無防備になる。
俺は姿勢を屈め、咄嗟に【疾駆】した。
間に合わせる!!
鉤爪が当たる直前、ヒューイの身体を抱えてその場を突き抜ける。
「アルトくん⁉ 速っ!!」
土煙に覆われ、「ふぅ────」と息を吐く。
間に合った。
「大丈夫ですか?」
「あっ……は、はい……ありがとう、ございます……」
ヒューイをお姫様抱っこする形で、救い出していた。
仲間の危機に本気で焦っていたティアとブラドが安堵する。
「ヒュ、ヒューイの馬鹿! ちょっとは周りを気を付けてって言っとるでしょ!」
「まぁ……無事でよかっただろう。アルトには感謝しかないな」
無事なら、俺はそれでいい。
この人たちは悪い人たちじゃなさそうだし。
「じゃ、ちょっと待っててくださいね」
「……は? も、もしかして一人でやるつもりか⁉」
その場にヒューイを下ろし、剣の柄に手を伸ばす。
目を瞑る。
集中……集中……。
俺は駆けだした。
さきほど見せた【疾駆】を使って、加速していく。
(……あの魔物、俺の動きを捉えられているみたいだ)
人間よりも何十倍の強い動体視力だ。反応できない方がおかしいか。
でも、目では追えても体の反射では追いつけまい。
眼前まで迫ると、ジャイアント・ベアの鉤爪が迫っていた。
「アルトくん危ない!! そんな距離じゃ回避も間に合わないよ!!」
心配してくれてありがとう、ティアさん。
でも、回避するつもりはない。
「居合」
スパッ────
ジャイアント・ベアの腕が宙を舞った。
そのまま上段から下段へ、一閃の光の如き刃で頸を刎ねる。
音を立てて倒れたジャイアント・ベアの死体に、アルト以外の全員が固唾を飲んだ。
「や、やべえ……」
「アルトくん、つよ……」
「何者だ、彼は……」
アルトの剣の実力に圧倒され、視線を浴びる。
「みなさん、怪我とかありませんでしたか?」
喋りかけても返事がなく、ジッと見られたままだった。
(なにこの空気……)
「きゅ、休憩にしましょうか……」
苦し紛れの提案に、ようやく賛同する声があがった。
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