13.イスフィール家の男性陣


 夜会の前日。イスフィール家ではテット、レーモン、フレイが集まって真剣な面持ちで執務室に居た。

 議題は暗黒バッタやドラッド王国政治についてだ。


 さらにアルトについても話し合いになった。


「……アルトを正直なところ、どう思ったかの? フレイ」

「素直で良い子だと思ったよ。でも、あれだけの実力を持った子が埋もれていたなんて信じられないね」

「そうだのぉ……前に居た環境の話を聞いたが、酷いところであったみたいだ」


 アルトの事情を知ったウルクは、きちんとそのことをみんなにも話すべきだ、と言われていた。言われた通り今までのことを話すとさらに可哀想、と思われたことをアルトは知らない。


「本当、拾われたのがイスフィールで良かったね。他の貴族ならアルトくんを利用しようと必死になっていただろうし……あのベッドはあまりに危険だ」


 初めてアルトの作ったベッドで眠ったフレイは、その眠り心地に驚嘆していた。

 横になった瞬間寝てしまい、起きたら溜まっていた疲労が全て吹き飛ぶような感覚に数時間は興奮していた。

 

 王都のベッド職人が作った代物なんか、比ではないレベルだ。


 あんなのを一度味わったら、忘れられない。


「レーモンおじいちゃん。アルトくんが世に知られて、彼を狙う貴族がでるのは間違いないと思う。俺も何とかしてあげたいと思うんだけど」

「分かっておるが……テット、ルーベド家について調べはついたか?」

「はい。小さい領地を経営している男爵家のようです。元使用人に聞いたところ、黒い噂も多くあるとのことで……明日の夜会にも出席するそうです」


 「ふむ……」とレーモンは悩む。

 何かをするわけではないが、アルトのことを探しているのだとすれば大事になるだろう。


「黒い噂って何? あんまり聞いたことない家なんだけど」

「どうやら、出自の分からない大金を使って闇取引や賭博行為に手を出しているらしく……」


 怪しい話だ、とはフレイも思った。

 男爵家とは言え、油断すると危険かもしれない。


 何かあった時にどうやって、アルトを守るべきか。


 あの才能はドラッド王国の運命を大きく左右するかもしれない。

 それほど凄い存在だと、イスフィール家の人間たちは理解していた。


「夜会は……明日か。何も起こらねば良いのだがのぉ……」


 ***


 ウルクの部屋にメイド長アンナが居た。

 静謐な空気の中、黙っていられず口を開いた。


 夜会は明日だというのに、肝心のドレスが入らないのだ。


 ドレスを着ることを諦め、服を着てベッドに座る。


「……ウルクお嬢様」

「頼む、何も言わないでくれ……」

「いえ、こればかりは言わせていただきます」


 ウルクは目を背け、現実逃避をしていた。

 知りたくない。聞きたくない。


「また、なりましたね?」

 

 口に出され、カーッと赤面する。

 なぜかここ数日で、ウルクの双丘が膨れていたのだ。


「わ、私だって好きで大きくしているわけではない! 防具だってキツイんだぞ⁉ うぅ……」

「はぁ……なんか、アルトさんがいらしてから大きくなったような気が……より美しい女性に近づいた……というのでしょうか?」

「そ、そんな意識はしていないんだが⁉ まぁ……少しくらいはしているかもしれないが」

「良いですかウルク様! 女性は男性を意識すると、途端に身体が成長します! 女らしくなるのです」


 違うと言っても聞き入れないアンナは、得意げに話を続ける。

 ウルクも否定を諦め、その話を聞いていた。


「胸が大きくなるということは、女性として見て欲しいと思っている証です! 違いますか?」

「私は口が粗暴だし、不愛想なんだぞ? 女として見られたいだなんて……」


 自身の大きくなった胸を見る。


(女らしく……可愛い口調で話せば、もっとアルトから話しかけてもらえるのだろうか)


「自然と分かりますよ、ウルク様。さて、ドレスが入りませんが、どうしましょうか……」


 メイド長アンナは、寸法を測り修正し直す相手を思い浮かんだ。

 ニシシッと笑い、その人物の名前を言う。


「アルトさんに修正をお願いしましょうか」

「えっ⁉ アルトにか⁉」


(ウルク様はあまりにも男性経験が無さすぎる。ちょっとは耐性がないと、きっと将来困るわよね!)


 メイド長アンナの要らないお節介によって、ウルクのドレスを仕立てる依頼を出そうとしていた。


「な、なぜアルトなんだ⁉ ふ、不満と言う訳ではないが……別にアンナでも良いだろ?」

「大丈夫ですよ。大きさを伝えて、修正して頂くだけですから」

「ま、待て! それはつまり……その……あの……胸の大きさを……知られるって……」

 

 人差し指をモジモジと動かし、気恥ずかしいのか俯く。

 こんな乙女なウルクを見たことがないアンナは『絶対恋してる』と勘違いを加速させ、ますます二人の関係を深めたいと思った。


「や、やっぱりダメだ! 絶対にアルトには頼むな! アンナがやってくれ!」

「むふふ……え~、どう致しましょうか」

「め、命令だ!」


 そんなやり取りが廊下まで響いていた。

 結局アンナが修正して間に合わせた。


 翌日、夜会パーティーが始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る