8.~ウェンティ視点~


「アルト……アルトは⁉」

「も、申し訳ございませんウェンティ様……まだ見つからないようで……」


 新しい執事は恭しく頭を下げ、癇癪を起されないだろうか不安だった。

 何をされるか分からないため、メイドたちは部屋に入ってこない。


 増幅しきった我儘は、この王国一番と言っても過言ではないだろう。


「早く見つけてきなさい……っ!! この無能たち!」

「は、はい……」


 執事が下がると、代わりにルーベド家の当主がやってくる。


「パパ!! あのね、あの執事たちが使えないの……もっと優秀な執事を連れて来て欲しいの!」

「ウェンティ……アルトの時も同じこと言っていたじゃないか……今の執事で10人目だぞ? ここ数日で早すぎる」

「だってみんな私のことを蔑むんだもの!!」


 男爵という地位は、貴族社会では最も階級の低く下に見られることが多い。

 幼少期に侯爵家、伯爵家の子どもたちにイジメられた過去から、誰よりも見栄を優先し性格が歪んでしまった。

 

 それを助長させたのがアルトだったのだ。

 なんでも我儘を聞いて達成してしまうアルトに甘えきっていた。


「ウェンティ、よく聞くのだ。伯爵家との縁談の話を掴んできた」

「まぁ!! パパ本当!?」

「あぁ! これで無事に結婚できれば、私たちは権力を持つことができるんだ」

「凄いわパパ! で、その方はカッコいいの?」

「あー……まぁそうだな! 体格が良くて、可愛らしい顔立ちだな……」


 ウェンティはなおのこと喜んだ。

 少年のような人なのだろう、と。


「近々、貴族の夜会があるんだ。そこにウェンティと会うことになっている」

「貴族の夜会⁉ 豪華なドレスを着て行ってもいいの⁉」


 豪華なドレス。

 それはアルトが丹精込めて作ったものだった。『王国一、美しいドレスを作りなさい』という命令を忠実にこなした結果にできたものだ。


 それを着て、自分たちを馬鹿にした貴族を見返してやろう、とウェンティは考えていた。


 そして麗しい婚約相手とダンスを踊る。


(これなら、私を馬鹿にする人間なんていないわ! ふふっ)

 

「もちろんだ! お前ならきっと何を着ても似合うだろ」

「やったわ! あとはアルトが帰ってくれば……私の人生は幸せよ……ふふふ」


 しかし、そのパーティーにはウルクも出席予定であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る