If 瞳は光を映す

十二月八日──

コートを羽織はおらないと凍えてしまいそうな寒い日。

僕は『運命の人』に出会った。


長い黒髪にキラキラと輝く黒い瞳。

片手には僕の好きな作家の書いた本。


そこからの行動は早かった。


「君も好きなの?──。」


「あなたも?結構マイナーな作家だからあんまり趣味の合う人いなかったんだけど」


「僕も初めて会った」


会ってすぐに本の内容で盛り上がった。

この作家が手がけるのは推理小説。


世間では二番煎にばんせんじだのなんだの言われているが、そんなことはどうだっていい。

内容が面白いのだから仕方がない。


彼女は桐島弥生きりしまやよいと言った。


同い年、そして大学の同じ学部。


これを運命と言わずしてなんと言うのだろう。



そして僕らは付き合うことになった。


恥ずかしがりながらも自分の気持ちを素直に伝えてくれた君が愛おしくてたまらなかった。


恋仲になってからは毎日がキラキラと輝いていた。



しかし、そんな幸せも長くは続かなかった。


あるとき僕は原因不明の病にかかった。


医者は感染症を疑っていたが、感染源も病原菌の正体も掴めぬまま時間だけが過ぎていった。


病院のベッドで眠っていたとき、夢を見た。


君の・・弥生の夢だった。


でも、弥生は少しおかしかった。


いつもキラキラと輝いている瞳が漆黒しっこくに染まっていた。


そんな彼女を見て、僕はとても怖くなった。

あんな弥生は見たくない。


最後の希望である弥生がどこか遠くへ行ってしまったような気がした。


でも違った。


毎日病院に通ってくれる弥生はとても笑顔で、目もキラキラと輝いている。


夢の中のような君にしないために、僕は頑張るね。



数ヶ月後──

雪の降るホワイトクリスマスの日。


「また冬がやってきたわね」


「そうだね。あれから一年か」


「長かった?」


「ん〜そうでもなかったな」


今は君と、二人並んで同じ景色を見ている。


僕は回復し、症状も出なくなった。

完璧に治ったかどうかは怪しいが、ピンピンしているから多分問題ない。


「また君と綺麗な景色が見れて嬉しいよ」


「そうね。あ、そういえば──の新作がでたわよ!」


「え、はよ読まな」


「早く帰ろう」


「うん!」



雪の中、男女は運命を超えて歩みを進める。


運命という輪廻は終わりを告げ、新しい二人の世界が始まった。


誰も悲しむことのない、幸せな世界が。


彼らの瞳には永遠に光が映り続けるだろう──

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その瞳は何を映す? 文月 いろは @Iroha_Fumituki

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