第41話

「はあ、ややこしい。それに根深い。」

私の言葉にお杉ちゃんは同意してくれた。

「そうだね。今、この年になってつくづく思うよ。意地と見栄ははるもんじゃないね。それに勝ち負けにこだわらないほうがいいね。」

「そもそも、何をもって、勝ちなのかな。フキさんと静枝さん。どちらが勝ちとかじゃないよ。フキさんは浮気されたけど、静枝さんは庄助さんと結婚できてなくて、中途半端だよね。なんか、どっちも被害者だよ。回り回って、おばあちゃんがかわいそう。無理して喜之さんと夫婦でいたのかな。」

お杉ちゃんはしばらく黙っていた。私はそっとお杉ちゃんの顔色をうかがう。

「まあ、喜之さん、浮気だけはしなかったから。庄助おじさんの浮気に苦しめられたフキおばちゃんにとっては、すごいプラスポイントだよ。そうでなければ、喜之さんはフキおばちゃんに叩き出されたよ。それに芙美ちゃんには阿紀ちゃんがいたからね。いつの間にか芙美ちゃんは阿紀ちゃんの教育にのめり込むようになったね。」

「それはわかる。」

「あんたも、芙美ちゃんに育ててもらったんだからね。」

お杉ちゃんは笑った。

「阿紀ちゃんの教育にはフキおばちゃんも参加してたよ。」

「えっ!何かすごいことになりそう。」

「阿紀ちゃんがピアノを習えたのも、フキおばちゃんがピアノを買って、月謝を出してたんだよ。雛人形に、七五三の着物、全部、フキおばちゃんがしてたよ。喜之さんが使ってしまうから、家を別にしても給料日前は寿司やらなんやかんやと差し入れしてたよ、フキおばちゃん。一度、うちの母さんが若夫婦を甘やかしすぎじゃないかって意見したんだけど、フキおばちゃん、黙って笑ってたそうだよ。」

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