第39話

「結婚って大変なんだ…」

私がつぶやくとお杉ちゃんはアハハと笑った。

「結婚が大変なんじゃないさ。みんな、生きていくのが大変なんだよ。あんただって、中学生だけど、色々あるだろう。」

「そうだね。」

お杉ちゃんは年の割に物分りがいい。おおかたの大人達は、子供達も苦労をしているとは思っていない。お杉ちゃんがもう少し若かったらいい友達になれるのに。

「あんたの学校は仏教だろ。お釈迦さまの教えを勉強しただろう。人生は苦であるって習わなかったかね?」

「さあ、どうだったかな?宗教の時間はいつも寝てるもん。貴重な睡眠時間だよ。」

「罰当たりなこと。あきれた子だね。まあ、何だかんだ言っても、私より芙美ちゃんのほうが苦労したと思うよ。喜之さんの金使いの荒さはあんたのお母さん、阿紀ちゃんが生まれても変わらなかったんだよ。フキおばちゃんも庄助おじさんも愚痴めいたことは言わなかったけど、さぞかし娘のことを案じただろうね。」

「じゃあ、結局、おじいちゃんとおばあちゃんの結婚生活は、親頼みって感じだったのかな?」

「まあ、そういうことさ。阿紀ちゃんが生まれたのをきっかけに、離れを切り離して一軒の家にして、芙美ちゃん達を独立させたんだけどね。喜之さんは、芙美ちゃんに給料を渡したところで、また小遣いをねだるだろう、遣り繰りに苦しむ芙美ちゃんを見かねて、フキおばちゃん、庄助おじさんが助けるって生活はずっと続いた。二人が亡くなるまで。」

祖母の苦労を思うと、もっと優しくしてあげたらよかったと後悔した。

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