第38話
「それで、喜之さん、おじいちゃんは変わったの?」
私が聞くと、お杉ちゃんは笑った。
「人間、そう簡単には変わらないよ。まあ、給料は、昔は現金支給だよ、家に入れるようになったけどね。」
「けど?」
「すぐ、『芙美ちゃん、お小遣い、ちょうだい!』って手を出すのさ。その様子がまた、何ともかわいいって芙美ちゃんが言うんだ。喜之さんは、育ちのせいか、甘えん坊だったからね。で、ちょっとずつ、渡してしまう。」
駄目だ、おばあちゃん。それって絶対、駄目だから。祖母の話しになると、なかなか冷静に聞くことができない。
「婿養子って立場は男の人にとって、辛いのかもしれないね。私も長女で、お婿さん、もらって、芙美ちゃんと違う苦労をしたからね。」
「聞きたい。お杉ちゃんの恋ばな。」
「いいよ。だけど、大恋愛じゃないよ。相手はまた従兄弟の鉄平ちゃん。私より四才年下、バツイチさ。気が弱くて、せっかく銀行に勤めたのに生き残れなくて。お嫁さんに逃げられて長男なのに立場がなくて。私が勤めていた病院の事務に転職していて日勤の時にばったり会って。『あれ?鉄平ちゃん?』って言うと、『糸ちゃん?』って。うつむきがちで、寂しそうで。」
「それ、最初から完全に女性上位だよね。」
「まあね。私が結婚したのは、芙美ちゃんの結婚から二年後でね。三十二才。当時では行き遅れだよ。長女で親の面倒みなければいけないし、妹達はさきに結婚させてさ、無我夢中で仕事して。結婚なんて縁がないって思ってた。」
「それで、どうなったの?」
「あんたが期待しているようなロマンチックなものじゃないよ。『家に居づらいなら、うちにおいでよ。』って言ったら、最初はご飯を食べるだけ、そのうち、父さんや母さんの畑を手伝いに来てさ、休みの前の日は泊まってあくる日朝から手伝ってくれて。気がつくと、うちの婿になってた。」
私は吹き出した。
「いい人だったよ。でもね、自分は男として、長男として駄目だって、ずっとひきずってね。実家のほうは弟が跡を継いでね。厄介払いされたんだよ。息子二人授かったけど、定年待たずにあっけなく逝ってしまったよ。うつ病でね。鉄平ちゃんは勤め続けるのが精一杯だったんだろうさ。」
私は言うべき言葉がみつからなかった。
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