第37話

「ねえ、具体的にフキさんはどうしたのか知ってるの?」

私はお杉ちゃんに聞いた。

「芙美ちゃんに、『喜之がお前のことを好きになるように仕向けるように。』って言ってさ。まず、手始めに喜之さんの身内を大事にすることからはじめた。喜之さんは母親の顔を知らなくて新しいお母さんとは上手くいかなかったから、育てたのは喜之さんのおばあさんなんだよ。昔は結婚、出産が早いから、おばあさんって言っても四十歳半ば、十分、子育てできるさ。モトエさんっていうんだ。フキおばちゃんより十歳年上のバリバリの明治女だった。フキおばちゃんと芙美ちゃんがよく食事に招待してたよ。よっぽど気があったのか、よく来てたよ、モトエさん。」

「へえー。」

「それから、喜之さんが親しくしてる母方の叔母さんって人がいてさ。なんでも喜之さんのお母さんの二十歳はなれた妹さんで、喜之さんの二つ年上かな、感覚としては、親戚のお姉さんだね。」

「ふうん、それで。」

「当時、昭和三十九年だけど、喜之さんの叔母さん、和子さんが、気の毒な人でね。大きな農家にお嫁入りしたんだけど、かえされてね。」

「なんで?」

「和子さん、結核になってね。もちろん、その頃は結核の治療ができて、治ったんだけど、それでも、体の弱い嫁はいらないんだって。」

「ひどっ!人権侵害!」

「嫁ぎ先からかえされて、実家で肩身がせまかった和子さんも、よく招待していたよ。近くの会社にお勤めしていた和子さんをよく泊めてたな。朝なんか、和子さんのお弁当作ってあげて。」

「フキさんと、おばあちゃんで、色々お世話したの?」

「そうさ。そうやって、外堀から埋めていったんだよ。」

フキさんって、凄腕の策士だと思った。

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