第36話

「新婚旅行から帰って来て、若夫婦のために庄助おじさんが建てた離れで、芙美ちゃん達の新婚生活が始まったんだけどね。」

お杉ちゃんの口ぶりから、すでに嵐の予感がする。

「喜之さん、少なくとも、最初の一年は芙美ちゃんに給料、渡してないな。」

「えっ!どうして?」

「まず、喜之さんの自家用車の代金。月賦、今でいうローンだよ。それに週末に同僚と飲みに行ったり、休みの日は、釣りやらスキーやら。芙美ちゃんは置いてけぼりだよ。」

「今なら、瞬間で離婚だよ。」

お杉ちゃんは苦笑した。

「まあ、離れって言っても、電気とかは母屋とつながっているし、食事は親と一緒に食べるし、風呂やらトイレも親と同じだから、芙美ちゃんは飢え死にしないがね。」

そういう問題ではない。祖父はまるで子供ではないか。結婚して二人で暮らすという自覚もなかったんだ。

「おじいちゃんって、学校の先生だったんだよね。なのにやってること、自分勝手な子供じゃん!」

「そうだね。親と同居で、婿になってやったって、喜之さんが思ってたかもしれないね。フキおばちゃんもさぞかしがっかりしたんじゃないかね。ただ、そこは気合いのはいった明治女だよ。愚痴をこぼすくらいなら、まずは行動さ。喜之さんを婿にしたのは自分だからね。私が喜之を育てなおすって、フキおばちゃん、母さんに言ってたらしい。芙美ちゃんにも、喜之さんの言いなりにならず、そうかと言って高飛車な態度をとらず、喜之さんを大人にするために、フキおばちゃんから、色々とアドバイスしたようだよ。」

おばあちゃん、結婚する前に、どうしてもっと考えなかったの?じっくり付き合ったら、おじいちゃんの金使いがあらいことに気がついたかもしれないに。

祖母にはもっと自分を大事にしてほしかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る