第34話

祖母は、お杉ちゃんが助産師であることを私に一言も言わなかった。進学も就職もしなかった自分に、心のどこかで引け目を感じていたのだろうか。

祖母は二十四才で結婚したと聞いたことがある。祖母はどんな思いで、祖父と結婚するまでの日々を過ごしていたのだろう。十代後半から二十代前半にかけて、一番きれいだった時、恋をしなかったのだろうか。お杉ちゃんに聞くと、

「それはないね。」

と断言された。

「どうして?」

「庄助おじさんのせいだろう。芙美ちゃんが嫌がるからって、あきらめたようなふりはしていても、心の中で静枝さんの息子と芙美ちゃんの結婚を望んでいたし。フキおばちゃんがそんなことさせないって言っても、昔は父親が威張ってるだろう。芙美ちゃんにきた縁談、庄助おじさんが片っ端から断ってさ。芙美ちゃんもどうでもいいって、自分の人生、投げやりになってるように見えた。」

「でも、おばあちゃん、結婚したよ。」

「フキおばちゃんの執念だよ。静枝さんの息子よりいいお婿さん候補、見つけてきたのさ。運送業をやってた時のお得意様だった人に頼んで。それがあんたのおじいちゃんだよ。なんと、庄助おじさんが気に入ったのさ。」

「なんで?」

「喜之さん、あんたのおじいちゃん、あの時代、昭和三十八年だよ、自家用車、持ってたんだ。『若いのにたいしたやつだ!』ってさ。高校の先生で、堅い仕事だって、フキおばちゃんがまず飛びついたんだけど、庄助おじさんも気に入ったんだよ。」

「で、まさか、それで、おばあちゃん、おじいちゃんと結婚したの?」

「まあ、そういうことで、あっという間に。」

おばあちゃん、大丈夫?そんなに簡単に人生決めて。後々、大変だったんだじゃないの?私は祖母に心の中で話しかけていた。

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