第33話

「ちょっと、話しが重くなってしまったね。で、気分をかえて、私のことを話していいかね。」

お杉ちゃんの提案に私は賛成した。

「聞きたい。私、おばあちゃんから、お杉ちゃんのこと聞いてない。あっ、ごめんなさい。杉野さんでした。」

謝る私に、お杉ちゃんは笑って言った。

「お杉ちゃんでいいよ。職場でも『お杉』で通ってた。」

「職場?」

「私は助産婦、今でいう助産師になったのさ。」

「知らなかった!」

「やっぱりね。芙美ちゃんは私のこと、何も言わなかったんだね。ちなみに、あんたのお母さん、私がとりあげたんだからね。」

「へえー、知らなかった。」

意外や意外。誰も教えてくれなかった。

「話しを戻すね。フキおばちゃんの『お金や土地は騙されて盗られることがある。でも、学んで身につけたものは、誰にも盗られない。』って教えは、うちの家にまで染み込んでね。最初は母さんだけだったけど、父さんも思うところがあったんだろうね。先ずは、私に手に職をつけろって。私は小さい子供が好きだから、赤ん坊をとりあげる仕事がしたくて、学費を工面してもらって資格を取って。三十歳を過ぎるまで、大きな病院で三交代で、夜勤もこなして、がむしゃらに働いた。」

「す、すごい‥‥」

「女ばっかりの恐ろしい職場でさ、お産は命がけだから、モタモタしてたら、『お杉!遅い!』って怒鳴られた。結婚してからは、少し、楽なところにかわったけれどね。気がついたら、妹達も同じような道に進んだよ。二番目と三番目は看護婦で、一番下の子が私と同じで、助産婦さ。」

私にとって、お杉ちゃんは、お隣のおばあちゃんだったが、実は、気合いのはいったキャリアウーマンだったのだ。それも「女の世界」で生き抜いてきた人だった。

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