第31話

「まあ、静枝さんに負けたくないフキおばちゃんの気持ちはよくわかるし、それが芙美ちゃんにとって、いい方に向いている間はよかったんだけど。」

「何かが起こったんだ。」

私がそういうと、お杉ちゃんがうなずいた。

「フキおばちゃんがつきっきりで励ましたおかげで、芙美ちゃんは附属中学、高校時代は優等生だったんだ。ところがさ、庄助おじさんが、芙美ちゃんが高校を卒業したら、結婚させるっていいだしてさ。」

「誰と?」

「静枝さんの息子とさ。二番か三番めか。芙美ちゃんの好きな方を婿にしたいって。」

「ありえない!自分の娘と愛人の息子と結婚させるの?血のつながりはないけどさ。」

私は仰天した。

「庄助おじさんは芙美ちゃんを小さいころから静枝さんのところに連れて行ってただろう。静枝さんの三人の息子達も、芙美ちゃんとよく遊んだらしいからね。子供のころから知っている相手ならと思ったんだろうけど。」

「で、どうなったの?当然、修羅場だよね。」

お杉ちゃんはため息をついた。

「フキおばちゃんの怒りは凄まじかったよ。庄助おじさんの着物とか背広とか、大きな風呂敷につつんで、それを庄助おじさんに投げつけて、『出ていけ、この野郎!』って。ご近所、みんなで喧嘩をとめたんだ。」

「うわっ!ご近所迷惑。でさあ、おばちゃん、どうなったの?」

「さすがに、芙美ちゃんが嫌がったんで、その話はなくなったんだけど、その後がさ、芙美ちゃん、何もかも嫌になったんだろうね。やる気をなくしてさ。高校は卒業したけど、進学もお勤めもしなくて。まあ、家事手伝いって感じで。当時はそれでもよかったんだけど。」

お杉ちゃんはまた、ため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る