第30話

「小学生で、死にたいってかあ。おばあちゃん、色々きつかったんだね。そうだよね。きっと静枝さんのことだって、最初は親切なおばさんって感じだよね。」

私が言うと、お杉ちゃんはうなずいた。

「そうだろうね。でも、誰かが芙美ちゃんに言ったか、庄助おじさんと静枝さんのそぶりを見ててわかったか。附属中学校に合格したころから、芙美ちゃんは庄助おじさんについて行かなくなったよ。勉強が忙しいのを理由にして。それに……」

お杉ちゃんがククッと笑う。

「何?」

「ごめんよ、笑ったりして。フキおばちゃんがさ、すっかり、教育熱心になってね。芙美ちゃんが試験の時は私も試験だって、横につきっきりで、本当にすごかった。」

お杉ちゃんはまだ笑っている。

「そんなにおかしい?」

「いや、フキおばちゃんのことをずっとみてきた母さんなんて、本当にびっくりしてたさ。フキおばちゃん、最初は、育児ノイローゼになりかけたんだからさ。みんなで助けたんだから。」

「バリバリ、仕事してた人だもんね。その人が子育てとか、すごいギャップありそう。ちなみにうちのママは、最初から潔く、私のこと、おばあちゃん任せだよ。おばあちゃんにそう聞いた。」

お杉ちゃんは、大笑いしてから、真面目な顔で言った。

「まあ、根っこにあるのは、静枝さんへの対抗心だわな。」

教養のある父親の愛人に対抗して、ひたすら愛情をそそぐ母親。重い。確かに重い。私はそう思った。

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