第29話

「ねえ、おばあちゃんは、静枝さんのこと、いつ頃、気がついたんだろう。」

私の問いに、お杉ちゃんはしばらく考え込んだ。

「今までわからなかったんだ。おばあちゃん、なんだか、いつもいらいらしてるみたいで。あのね、誤解しないでね。美味しいご飯を食べさせてもらって、かわいい服、着せてもらって、色々、面倒を見てもらって、すごくありがたいと思っている。でも、もっと、おばあちゃんに笑って欲しかったんだ。」

私は一息ついた。

「上手く言えないけど、おばあちゃん、色々、かかえてたのかな。そう、葛藤してたんじゃないかな。」

そういうと、お杉ちゃんはうなずいた。

「そうだね。芙美ちゃんは色んなもの、背負いすぎたのかもしれない。」

「色んなもの?」

「自分の出自、フキおばちゃんの思い、庄助おじさんの願い。どれをとっても、芙美ちゃんには重かっただろうさ。小学校の高学年ぐらいか、芙美ちゃんが、『死にたい、死にたい。』って言うようになって、庄助おじさんが、『そんなことを言うと、本当に死神にとりつかれるぞ。だから、死にたいなんて言うな。』って言い聞かせてさ。フキおばちゃんも

目を離しちゃ駄目だって思ったんだね。芙美ちゃんに付きっきりの時期があったね。夜も川の字になって、三人一緒に寝てるって、フキおばちゃんが言ってたな。その頃に、芙美ちゃんは、庄助おじさんと静枝さんの関係とか、気がついたんだろうよ。」

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