第28話

お杉ちゃんは機嫌をなおして、話し始めた。

「とにかく、今までと違って、フキおばちゃん、結構、意識して張り合ってたね。」

「やっぱり、相手の学歴、気になったのかな?」

「そりゃあ、女学校じゃなくて、女子高等師範学校卒業だからね。」

「超エリートってことでしょ。でもさ、それでも、昔の女の人は、やっぱり結婚して家庭にはいったんだね。今だったら、学校の先生なら、絶対、辞めないよね。ママもそうだけど。」

「そういう時代だったね。ただ、皮肉なもので、戦争がすべてを変えたんだ。男の人達がみんな戦死して、静枝さんに社長の座がまわってきた。」

「フキさんの天敵は静枝さんっていうんだ。美人だったの?」

「そうだね。目がぱっちりして、優しい感じかね。男の人に混じって威勢よく、ガンガン仕事をするフキおばちゃんと違って、どう言ったらいいかねえ。静枝さんは腰が低くてさ、理由を丁寧に説明してからお願いして、人を動かす感じかね。フキおばちゃんは情に厚い人で、静枝さんは理知的な感じだね。」

静枝さんは、お杉ちゃんも一目置く相手だったのだろうか。お杉ちゃんの言葉の端々に静枝さんに対する敬意を感じた。

「庄助さん、タイプの違う、魅力的な女性二人の間を行ったり来たりしてたんだ。」

私がそう言うと、お杉ちゃんは苦笑した。

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