第27話

「フキさんは、心中、穏やかじゃないよね。」

私の問いにお杉ちゃんはうなずいた。

「これまでと違うからね。かわいい娘の教育に口出しされているんだから。ただ、芙美ちゃんが、喜んで、オルガンを弾いているんで、それは黙認していたんだ。近所の子供達もオルガンにつられて、たくさん遊びに来たよ。私も芙美ちゃんより、年上なのに、芙美ちゃんに頼んでオルガンを触らせてもらってさ。フキおばちゃんも優しい目で子供達を見てたよ。芙美ちゃんを附属中学校に入れるのも反対しなかった。今じゃ考えられないけど、当時の小学校に熱心な先生方がいてさ、附属中学校を受験する子供のために、放課後、補習をするってことで、五年生くらいから芙美ちゃんを参加させた。フキおばちゃん、自分ができなかったことを娘にはさせてやりたいって。」

「そうなんだ。」

「ただし。」

と、お杉ちゃんは語気を強めた。

「フキおばちゃん、庄助おじさんのことは、よその人だと思うことにしたって言ったね。」

「よその人だって思うぐらいなら、離婚の方がマシなんじゃないの?」

私は思わず言ってしまった。

「おませなこと言ってても、あんたには夫婦のことはまだまだわからないだろうよ。」

「夫婦のことって?」

「好きとかきらいとか、他の相手ができたら別れるとか、そんなに、単純じゃないのさ。例えば、よその人っていいながら、フキおばちゃん、庄助おじさんのために、毎朝、毎晩、ご飯をつくってたさ。庄助おじさんだって、毎晩、フキおばちゃんのところに帰って来てたし。」

聞いていると、頭がくらくらする。

「それって、腐れ縁だね。」

というと、お杉ちゃんに睨まれた。

「ごめん、ごめん。続きを聞かせて。お願いします。」

私は、慌てて、お杉ちゃんの機嫌をとった。

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