第20話

私は深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。

「フキさんは、私のおばあちゃんのこと、産みたくなかったんだね。」

「そうだよ。それを私の母さんとフキおばちゃんのお母さんがとめたんだ。」

お杉ちゃんによると、フキは妊娠がわかって、取り乱した。お腹の子を堕ろすというフキを二人がかりで説得したそうだ。

私は祖母の顔と写真で見たフキさんと庄助さんの顔を思い浮かべた。私のなかにある考えが浮かんでいる。口にしたらお杉ちゃんは怒るだろうか。でも、その考えが正しかったら、祖母が自分の母親が事業をしていたことを話したがらなかったことに納得がいく。

「怒らないで聞いてね。私のひいおじいさんは庄助さんじゃないような気がするんだ。」

私は、精一杯、言葉を選びながら言った。

「おばあちゃんは自分のお母さんのことを話している時、すごく優しい顔で、可愛がってもらってたことはよくわかった。でも、上手く言えないけど、何かをなかったことにしているみたいだった。そうだよ。おばあちゃんは、お母さんとしてのフキさんは大好きだったんだ。だけど、他の部分は違うんだよ。フキさん、一生懸命生きたんだよね。私はフキさんのこと、全部、大好きだよ。」

「あんた、いい子だよ。」

お杉ちゃんは優しく言ってくれた。「芙美ちゃんが無事に生まれてよかったと思ってるよ。浮気者だけど、庄助おじさんは芙美ちゃんを可愛がっていたし、フキおばちゃんは専業主婦になったけど、いいお母さんになったんだよ。まあ、夫婦円満っていうわけにはいかなかったけどね。」

お杉ちゃんも私もフッと笑った。

「確かに、あんたが思っている様なことを噂をする人はいたよ。一人いるんだよ。庄助おじさんが帰って来てから、いなくなった運転手が。」

お杉ちゃんは静かにそう言った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る