第19話

「違うよ。何か違う。これで終わりじゃない。」

私の言葉にお杉ちゃんは目を丸くした。

「何だって。」

「だってさ。庄助さんは、最初は大恋愛なのに、浮気とかで、フキさんを苦しめたんだよね。フキさん、色々、ひどい目にあってるよね。それなのに、庄助さんが帰って来たからって、子供ができるようなこと、するかな。私なら何で帰って来たのさってどやしつけるけど。」

お杉ちゃんはびくっとした。私の言い方がきつかったと思い、謝った。

「ごめんなさい。私、ひどいこと言ったよね。戦地から命からがら帰って来た人に言うことじゃなかったね。」

「いいや。フキおばちゃん、同じことを言ったんだよ。私は小さかったけど、庄助おじさんが帰って来た日のこと覚えているよ。庄助おじさんを見て、フキおばちゃんは『なんで、なんで帰って来たのさ。あんたなんか、鉄砲のたまにあたればよかったのに。』って言ったんだよ。」

私は、恐る恐る聞いた。

「そう言いながら、フキさんはポロポロ涙こぼしていたとか、そんなドラマみたいなことは……」

「なかったよ。」

お杉ちゃんはポツリと言った。

「フキおばちゃんね、妊娠がわかった時、産みたくないって、大変だったんだ。」

私はお杉ちゃんの目をまっすぐに見て言った。

「私、何を聞いても驚かないよ。だって、もう十分、驚いてるもん。だから、全部、教えて。ありのままのフキさんのこと。それから、おばあちゃんのことも。」

「わかったよ。あんたが知りたいこと、全部、聞いてくれたらいいよ。」

お杉ちゃんは何か、決心したように見えた。

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