第18話
お杉ちゃんによると、どういう経過があったのかははっきりわからないのだが、個人で経営している運送業者が集まって、合同で大きな運送会社をつくることになったそうだ。フキもそのなかに入れてもらうために会合に参加した。所有するトラックの台数が多いものを社長にするということだったが、なんと、女の身で、フキがトラックの台数が四台と、皆のなかで、一番多かったそうだ。
「庄助おじさんが運送業を始めたころから、似たような商売をしているところはたくさんあったんだけど、戦争中のガソリン不足で、廃業したり、トラックも一台か二台を維持するのが精一杯のところが多くてね。そんななかで四台ってすごいことなんだよ。」
「じゃあ、フキさんが社長になったの?」
私は、ドキドキした。
「いいや。フキおばちゃんは社長にならなかったんだよ。」
「何で。どうして?フキさんが女だから?」
「とんでもない。フキおばちゃんが社長になるはずだった。誰も反対しなかったよ。」
「じゃあ、どうして?」
「庄助おじさんが除隊になって帰って来たんだよ。」
「でも、トラックを四台維持して、頑張ったのはフキさんだよね。」
「そうさ。母さんの話だと、フキおばちゃん、トラック四台の他に、庄助おじさんの借金を返して、借金と同じ金額の貯金もしたんだって。ちょうどいい時に庄助おじさんは戦地から帰って来て、社長におさまったんだ。」
「ひどい!フキさん、何も言わずに社長の座を譲ったのかな?」
「なにがあっても、男をたてる。明治女の美学だね。」
「わからん。」
私には、理解できない。
「それと、」
お杉ちゃんは言った。
「フキおばちゃん、妊娠したんだよ。あんたのおばあちゃんを。芙美ちゃん、昭和十五年生まれだろう。庄助おじさんはその一年前に戦地から帰って来てるんだよ。フキおばちゃんは三十八才、当時では超高齢出産だよ。庄助おじさんは四十代だよ。」
どうも釈然としない。
「それからはフキおばちゃんは、あんたのおばあちゃん、芙美ちゃんを育てるのに専念したんだよ。
私の話はこれで終わりだよ。」
お杉ちゃんはふうっと深く息をはいた。
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