第13話

「フキさん、ちょっと、何というか、怖い顔だね。」

「多分、この写真を撮ったころは、フキおばちゃん、とりわけ、大変だったんだよ。」

「庄助さんの女の人?」

「それもあるけど、姑さんだよ。とにかくいけずで。あんたのおばあちゃんを産む前に、フキおばちゃんは、一人子供を産んだのだけど、死産だったらしくてね。これはずっとあとに私の母親がフキおばちゃんから聞いたことなんだよ。」

お杉ちゃんのお母さんがフキから聞いたという話は、本当にひどいものだった。赤ん坊が死産で、そのあとフキは心身共に傷つき、寝たきりになったという。フキの実家は豆腐屋で、決して裕福ではない暮らしのなかで、フキの母親はお金の工面をして、娘のために卵をとどけた。だが、姑はフキにその卵を食べさせるどころか、フキが寝ている部屋の床下に隠した。昔の卵なので床下でヒヨコがかえった。その鳴き声でフキはことの次第を知ったそうだ。

一向に、フキの姿が見えないことに、業を煮やしたフキの母親は思いもかけない行動にでた。フキの兄を連れて華岡家におしかけ、フキは兄に背負われて実家に戻り、一年近くいたそうだ。

「でも、フキさん、離婚してないよね。」

「そうなんだよね。そういう時代だったんだよ。時期をみて庄助さんが連れ戻したって聞いたけど。本当のところはわからないね。フキさんの実家、お金に困っていて、庄助おじさんに助けてもらっているって、噂もあったらしいよ。」

ため息しかでない。ひどすぎる。

「華岡の家に戻ってからのフキおばちゃんは仕事を頑張って、従業員の面倒もみて、得意先を増やして、とにかく、がむしゃらに頑張って。その頑張りがあっての十周年さ。」

私はあらためて写真の曽祖母を見た。



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