第8話

お杉ちゃんは記憶をたどりながら話してくれた。私の曾祖母、華岡フキは明治三十五年生まれで、お杉ちゃんのお母さんよりも十年ほど早く華岡家に来たそうだ。フキは豆腐屋の娘で、家は貧しかった。小学校も卒業まで通えず、奉公に出た。詳しい経過はお杉ちゃんのお母さんも知らないそうだが、女中奉公をしていた豆腐屋の娘フキと地主階級の華岡家の一人息子の庄助が知り合い、恋に落ちたのだ。時代は大正にかわっていても、許されないことだった。結婚式もあげさせてもらえず、フキが庄助の妻として入籍できたのは結婚して随分たってからだったそうだ。

庄助はなかなかの野心家で、両親に頼み込み、先祖から受け継いだ田畑を売り、トラックを買って運送業を始めた。事業を起こして成功するにはよきパートナーが必要だ。学歴はなくても頭がよく、人付き合いが上手いフキは一緒に事業をするにはうってつけだったのだ。田舎で採れた野菜や米を都会に運び、帰りは下肥(しもごえ)を積んで帰る。フキは庄助と一緒にトラックに乗り、懸命に働いた。そうして、少しずつお金を貯めて、トラックや運転手を増やしていった。

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