第26話 甘い作戦大成功!

「こんにちはー!」


 元気よく挨拶をする苺の姿をモニターで見て、葉月美代子は「すぐに開けますね」と微笑んだ。


「まぁ、やはりすべて並べてみると壮観ですわね」

「本当に、どこかの美術館にでも来たみたいだ」


 杏と圭樹の感想の隣で、苺と桐谷は無言だ。

 4人の目の前には6服の掛け軸が並んでいる。一枚は盗まれた『穂雨月』。雨に濡れた秋の穂を描いた作品だ。残りの5服は、その後彼が闇オークションに出そうとして、再度盗んでいったものだ。

 この作戦が始まった時、圭樹は美代子に電話をしたのだ。

『鍵を変えるの、もう少し待ってください』と。更に彼は、

『代わりに防犯カメラを取り付けてください』とも提案したのだ。


「それで、また来られましたか?」


 圭樹の質問に、美代子は苦笑いで頷いた。


「えぇ、性懲りもなく。あなたの言う通りに防犯カメラの映像を見せて、『警察に通報します』と言ったら青ざめて帰っていったわ」


「通報すればいいのに」といったのは苺で、その言葉に美代子はやはり苦笑いだ。


「それでも、主人の甥ですもの。出来れば犯罪者にはしたくないわ」


 彼を犯罪者にしない、作品を取り返す、そのすべてを叶えるにはこの方法が一番だと提案したのは圭樹だった。


「本当にこの度のことはどんなに感謝してもしきれないわ。どんなふうに恩返ししたらいいかしら? なんでも言ってちょうだい。私にできる限りのことはさせていただくわ」


「そんなことは――」という圭樹の言葉を遮って、

「チーズケーキ!」と答えたのは苺だった。


「まぁ、いい提案ですわね。こんな素敵を作品を眺めながらお茶が出来たら、どんなに幸せでしょう」


 苺の提案に、杏もうっとりとした表情で掛け軸を眺める。


「そう言ってもらえて、本当に嬉しいわ。こうして誰かと投げんてながらお茶をするのも最後かもしれないから」


「え?」と誰もが驚く中で、美代子は小さく息を吐きだした。


「私と血がつながらないとはいえ、主人の甥。何度もこんなやり取りはごめんだわ。だから、主人の作品をどこかの美術館にでも委託しようかと思ってるの」


 個人宅で美術品を保管するには、限界があるだろう。セキュリティに湿度や温度管理、表層が汚れれば張替など、いくらでもお金が会っても足りないくらいだ。


「あの、それでしたらうちの美術館に預からせていただけませんか?」


 いきなりの杏の提案に、そこにいた誰もがきょとんとした。


「申し遅れました。わたくし、一ノ瀬グループの娘ですの。うちで管理している美術館ですが、同時に茶房も併設してますので、いつでも眺めながらお茶もしていただけますわ」

「まぁ……」

「勿論、これは正式なビジネスですので、うちの父を通してちゃんとした契約書も交わさせていただきます。一度お考えになってください」

「えぇ、えぇ! 本当になんて子たちかしら! 私はきっと天使たちに助けられたのね!」


 少しばかり涙目の美代子に、「そんなこと、ねぇ?」と照れる苺、「あら、苺ちゃんは天使ですわ!」と賛同する杏、ニコニコと笑うだけの圭樹、「悪魔の間違いだろ……?」と小さく呟く桐谷が居た。


 こうして作戦は大成功。


 そして、またいつもの毎日が始まる。


「そう言えば、今度は苺、テニス部に入るの?」

「うん、でもあれルール覚えるのが大変すぎる」

「ふふ、苺ちゃんのスコート姿はきっと可愛いですわ」

「……ラケットで人を殴るなよ?」

「殴るときは素手だ、桐谷」


 グッと拳を握る苺に、びくっと怯える桐谷。

「や、やめろ! 俺はサンドバックじゃなーい!」

「まぁ、サンドバックみたいな顔して何をおっしゃっているのかしら」

「どんな顔だ! それ!」


 今日も彼らは元気です。


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イチゴとケーキの甘い事件簿 桜瀬ひな @hina_xxx

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