第25話 甘い夢の終わり

「……おい、おい! いい加減起きろ!!」

「はっ!」


 正広が目を覚ますと、そこは古びたホテルの一室だった。


「ったく、浮浪者が入ってるって情報聞いて来てみれば。いくら取り壊し予定のホテルでも、これは不法侵入なんだよ? おっさん」

「な、何を言って……」


 ここはどこだ? と考えを巡らせる。昨日は闇オークションに作品を出して、それが落札されるのを見るつもりで……。


「町田さんは!? オークションは!? いったい何がどうなって」

「はいはい、おーい、この浮浪者を叩きだしてくれ。っつか、感謝してくれよ? 本来ならもう取り壊ししてて、アンタは死ぬところだったんだから」

「……」


 まるで、狐にでもつままれたような感覚に、正広は何もいうことが出来なかった。

 ホテルからつまみだされ、工事区間の外に放り出され、正広は呆然とした。


「ーースマホ!」


 どこにいるかも分からない状態で、頼りになるのはスマホだ。けれど車に乗る前に、彼女に渡してしまって……。


「ある……」


 ポケットの中に。取り出せば電源は切れていた。けれどボタンを押せが起動するスマホ。いつも通り動くスマホにホッとしながら、彼は思い出して連絡先を探した。


「ない? どうして!?」


 町田の名前が無くなっている。慌てて闇オークションのサイトにアクセスするが、「このサイトにはアクセスできません」の文字しか出てこない。


「夢……? いや、そんなことはっ!」


 気が付けば、鞄に入っていた掛け軸が無くなっていた。


「盗まれた! いや、騙されたのか!?」


 だが、財布や高価な時計などはなにも無くなっていない。


「……どうなってるんだ?」


 まるですべてが夢だったようで、彼には何がどうなったのか、何一つ分かることは無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る