第20話 甘い作戦進行中
目の前には、『穂雨月』の名をつけられた掛け軸が一幅。
「やはり、素晴らしいですわね。濡れた穂の清らかさが何とも言えませんわ」
「そうだね、この透明感が本当に素晴らしい」
それを称える二人の隣で、もう二人は眉間にしわを寄せる。
「お前、これに30万払うか?」
「無理! 木村屋の肉まん1年分の方がいい」
温度差のある会話の中、ピンポーンとパソコンが鳴った。
『着払いとは考えたな。受け取り業者になりすまして商品ゲットなんて、普通の高校生は考えんぞ?』
画面に現れたのは工藤で、「配達記録を残したくなかったんで」と答えたのは圭樹だ。この掛け軸は、圭樹と桐谷が配達員に変装して受け取りに行ったのだ。
『で、これがオークション結果。相手にも送っておいた』
続けて、画面に映ったのはネットオークションのアプリだ。
「すっげぇ、この絵が80万!? ならあの蔵の中、全部売ったらーー」
『バカか、全部プログラミング! そもそもその絵はお前らの手元だろ!』
そうだったと我に返る桐谷に、工藤は呆れるようにため息をつく。
『で、この次は?』
聞かれて、圭樹がにこりと笑う。
「これまでのものを取り返しましょう。全部、ね」
『怖ぇな、おい』
顔を引きつらせる工藤に、彼らは清々しい笑顔を見せたのだが、彼には悪魔の微笑みにしか見えなかった。
同時刻、ある人物のスマホに、一通のメールが届く。
「来た!」
急いでスマホを開くとお目当ての相手からで、彼はにやりと笑った。
『葉月正広様
いかがお過ごしでしょうか。
先日は掛け軸をお譲り下さりありがとうございました。
お譲り頂いた作品は、当オークションにて、無事落札されましたことをご報告いたします。
つきましては今後のお話ですがーー』
「ふっ、ははっ、あはははっ! これで俺は大金持ちだ!!」
一人の男の笑い声が、辺りに響き渡った。
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