第16話 スイーツたちの作戦会議1
そして翌日。
「ね、ちゃんと予約した?」
にっこりキラキラな笑顔に『NO』と言える人間がいたら、そいつには感情が無いのだろう。そう思えるほどの笑顔の前で、桐谷は『NO』と言えるはずもなく、コクリと頷いた。
「偉いぞー! 桐谷っ!」
席に着いてさえいなければ完全に苺はの方が背は低いのだが、座っているから立ってる苺の方が高く、頭をワシャワシャと撫でたりすることだってできる。
「や、やめろよ」
とか言いながらも、ニタついた顔は苺以外には分かりやすいくらいだ。
「ほら、苺、桐谷も嫌がってるから」
なんて圭樹の言葉に「そう?」と手を引っ込めると、その顔もそれなりな引き締まる。
「そ、そうだよ! 朝からセットした髪がグチャグチャだろ?」
因みに、桐谷の髪は短いためセットの必要は全くない。さらに言えば、きりっとしてさえいればそれなりの容姿を持っている。圭樹のような柔らかさではなく、スポーツマン的なシャープな顔立ちだ。
「そんな短くて寝癖が付きますの? 余程寝相が宜しいのね」
「……」
残念なのは、その頭の中だ、ということを記載しておこう。
「おー、警視庁ー!」
彼らが見上げるそれは、ドラマでよく見る『警視庁』だ。
「ってか、一応見学ってことに──」
「不動ー!」
まだ警視庁に入ってすぐ、受付すらたどり着いていないのに、呼ばれて全員が振り返った。
「父さんっ」
「みなさんもようこそ警視庁へ!」
大袈裟なオーバーリアクションに、流石の苺ですら一歩引いてしまうほど。
「いやー、日本の若者が警察業務に興味を持ってもらえるなんて、こんな嬉しいことはない! さぁ、どこが見てみたいかな? やっぱり花の捜査本部? いやいや、そこは流石に見学は無理だなぁ。機動隊なんてどうかな? 白バイとかいいぞう?」
「父さん、ちょっと落ち着いて」
桐谷にこんなことを言われたらお終いだな、と誰もが思っている中で桐谷親子の会話は続いた。
「何を言ってる? 父さんはいつだって冷静沈着だ。だからこそ今の地位をだな」
「それはいいから。今回はサイバー犯罪についてちょっと調べたいなぁって」
「おぉ! そこか! たしかに今どきの犯罪で興味を持つのもわかるぞ? でもだな、やはり警察の花形は刑事局でだな」
「いいから、そこ連れてってて!」
そう訴える息子に、父親は「そうかぁ?」と渋々納得した。
「そこまで案内してやりたいが、私も重責を担ってる身でな? だから」
「大丈夫です。どなたかに案内していただいたら大人しく見学してますから」
にっこり笑う圭樹に、桐谷は引きつる笑みを浮かべたが、苺も杏も晴れやかだ。
「そうか。それじゃ君。これうちの子とその学友なんだが、案内してやってくれるか?」
彼は受付に座る女性に声をかけると、「しっかり見学してくれ」と爽やかな笑顔を浮かべて去っていった。
「それではご案内いたしますね。一応見学コースがありますのでそちらに沿ってでよろしいでしょうか?」
有無の言わせない営業スマイルに、一同「はい」と答えるしかなかった。
「それでは『ふれあいひろば警視庁教室』、『警察参考室』、『通信指令センター』の3か所をご案内します」
そこはどうでもいいです、とは言えるはずもなく一同引きつるような笑顔をたたえたまま、案内係の彼女に着いて歩いた。
「それではこちらで映像を見ていただいて」
「あー、それは流石に……」
とやっと口に出来たのは意外かもしれないが桐谷だ。すると、向こうも気がついたのか「あ」と小さく声を上げた。
「そうですわよね、桐谷警視正のご子息に失礼いたしました!」
ちなみに、さらに意外かと思われるでしょうが、桐谷の父親は警察庁から出向している、俗に言う『キャリア組』です。そんなわけで特別待遇してもらうことに。
頼んだのは情報技術犯罪対策課。
「あの、ここは見学コースに入っていませんでして……」
「や、それなら工藤さん呼んでもらえますか? や、決して怪しい関係ではなく、俺のいとこなんです、はい」
そんなことを言えば怪しさ満点なのだが、そこは『警視正』の息子権力。
「あん? 不動?」
と、目当ての彼との面会をゲット。
「久々。元気だった? 正義兄ちゃん」
一応本当に従兄弟らしいことに、一同安堵した。
「で、落ちこぼれの俺になんか用?」
警察官、ではあるのだけど制服は着崩しているし、髪もボサボサならひげも伸び放題。誰もが思うかべる理想の警察官とは程遠い姿に、誰もが彼の境遇を少しばかり想像することも出来ただろう。
「落ちこぼれって、兄ちゃん、好きでここ入ったんでしょ?」
「あー? 本来なら俺はIT産業に入ってだな」
「うんうん、その腕を見込んで頼みがあるんだけど」
そんな桐谷の切り口に、工藤正義は眉をひそめた。
「人助けです。ほんの少し力を貸してもらえませんか?」
そう口添えをする爽やか笑顔の圭樹に、隣で苺が満面の笑顔でコクコクと首を縦にふる。
「もちろん、協力してくださいますわよね? 警察官といえば人助けがお仕事ですもの」
そしてにっこりと上品な笑顔で杏にダメ押しされて、工藤は逃げ場を失った。
「……話は聞いてやる。やるかやらないかはその後だ」
そんな条件に一同は工藤に付いてレストルームに移動した。
「で、話って?」
円卓のテーブルにドカッと座る工藤を、囲むようにして4人も座った。そしてそのテーブルに圭樹は一枚のプリントを提示した。
「実はこの絵を取り戻したいのです」
工藤はそのプリントを手にして、すぐさま面白くなさそうにまたテーブルに投げる。
「自分で探せ。こんなもんグーグル先生に聞けば何かしら出てくんだろ?」
「えぇ、探しました。それはすでにオークションサイトに載せられてましてね」
「ヤフオクか? 簡単に見つかったな。なら、それを落札しろ。はい、めでたしめでたし。」
「それじゃ意味がないんです」
その言葉に工藤の眉がピクリと動いた。
「実はこの作品、作者の身内が盗んで転売しようとしているのです。それを何としても阻止したい、というのが今回のお願いです」
「……普通に警察に盗難被害を出せよ」
「身内だから出せない、ということもありますでしょう?」
そう付け加えて説明する杏の言葉に、工藤は声を詰まらせた。
「なら、聞くけど、これからどうすんの? 被害届がないなら訴えることもできない。サイト側にも違法性はないわけだし、結局はそれが売り飛ばされるのを指をくわえてみてるだけって、取り返したいならオークションて落とすか、そいつから直に奪うかだ」
勿論それは犯罪だけどな、と付け加える工藤に桐谷も「だよねぇ」と頬杖をついた。
「ですから、向こうからコチラに持ってきて頂きます」
にっこり笑う圭樹に工藤は「はぁ!?」と顔を歪ませ、桐谷は「はぁ……」とため息をつく。
「どーやって!? もしかして俺に改心させろとか」
自分が警官だと言うことを思い出したのか、焦ってそう口にする工藤に圭樹は「まさか」と一笑した。
「話して分かる人間でないことくらいわかります。だから貴方に相談してるんです」
意味不明な言葉に顔をしかめるも、圭樹の笑みは崩れない。隣の苺は「あ、ピーポくんだ」と会話に参加しないし、「キーホルダー売ってましたわよ?」と、更に隣の杏も興味は薄い。従兄弟の桐谷不動も項垂れるだけで……。
「で、俺に何をして欲しいわけ?」
気になったのは、圭樹の笑顔の意味だ。一体何を考えているのか、何をしようとしてるのか?
「協力、していただけますね?」
「内容次第、っつったろ?」
興味津々な工藤の表情に、圭樹は勝利を確信し「貴方にやっていただきたいのは……」と計画を話し始めた。
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