第13話 もてなされるスイーツたち1

「……待て、五十鈴川。本当にここなのか?」


 改めてそう聞く桐谷に、苺も見上げながら「うん」と頷く。


 見るからに立派な日本家屋、今時屋根付きの門があることすら珍しいのに、そこには超現代的なインターフォンもある。


「名前聞いて少し思ったんだけど……」


 表札には「葉月」とある。


「えぇ、ここって確かに日本画家の巨匠・葉月弥山はづきみせんさんのお家ですわね」


 杏の言葉に「へー」と言いながら、苺はインターフォンのボタンを押した。


「おっ、おまっ!? 何考えてんの!?」


 焦りまくる桐谷に、苺は「ん?」と首を傾けた。


「なんで? 来てって言われたのこっちだし。押さなきゃ来たこと分かんないじゃん」

「ってか、日本画家の巨匠だって!」

「桐谷君、うるさいですわ」


 そう杏が言ってのけた瞬間、「はい」とお婆さんの声が帰ってきた。


「あ、五十鈴川苺です。友達も一緒ですけどいいですか?」

「まぁ! ええ、大歓迎よ。さぁ、入って」


 そういうと、大きな門は全員の前でゆっくり開いた。


「……自動? 金持ちか!?」

「あらあら、あなたのお家にはSPだっていらっしゃるでしょう?」


 先程も言いましたが、桐谷君の父親は警察官僚のお偉いさんなのです。当の本人は……、略しましょう。


「まあまあ、遠いのにごめんなさいね? 腰がまだ痛くて」


 そう言いながら、お婆さんこと、葉月美代子は苺たちを出迎えてくれた。

 通されたのは、和室、では無く洋風なリビングで、そこあるソファを進められた。


「和子さん、皆様にお茶を……、なんて失礼ねぇ。お茶のスペシャリストですのに」


 そう言われ、圭樹は苦笑する。


「まだまだひよっこです。それに抹茶と煎茶ではまた違うもの。ですがお構いなく、ただの付き添いですから」


 そう返す圭樹に、美代子は「そうねぇ、だったらコーヒーにしましょう。ご近所さんがハワイのお土産にと頂いたのがあったわよね?」と言えば、家政婦の和子は「はい、すぐに」と笑顔で答えた。


「あぁ、まだ自己紹介もしてなかったわ! 私、葉月美代子と申します。先日は本当に助けていただいて、ありがとうございます」


 恭しく頭を下げられ、苺も慌てて立ち上がる。


「えと、五十鈴川苺です! えと、助けたっていうか、タイミングが良かったっていうか、もっと遠くに犯人いたら着物だったし、追いつけかどうかも分かんないから、えと、だから……」

「どういたしまして、でいいんじゃないかな? 僕は支倉圭樹です。ただの付き添いですけど」


 そう圭樹が立ち上がって言えば、杏も優雅に立ち上がりお辞儀した。


「わたくし、一ノ瀬杏と申します。その節は病院まで付き添えなくて申し訳ありませんでした」


 その言葉に、あの場に居た彼女を思い出して「ああ!」と声を上げたが、美代子はすぐに笑顔で「いいのよ、大したことないんだから」と言ってくれた。


「あー、えー、桐谷不動です。完全に関係者ではありませんが、すんません。付いてきました」


 所在なさ気な桐谷に、美代子は「にぎやかでいいわ」と笑ってくれた。


「騒がしい、ですわよね。でも押しかけてでも来てよかったですわ。こちら、代表作の雪樹せっきですよね? でもこれって……」


 そんな杏の言葉に、美代子は「まあ……」と驚いて、それからニコリと笑みを見せた。


「お若いのによくご存知なのね、そう、主人の代表作で雪樹。とはいえは、こちらは相剥ぎ本なのよ。本物はちゃんとニュースで流れたように美術館にあるから大丈夫」


 そう言われに杏は少し困ったように「そんな……」と言葉を濁し、苺は聞き慣れない単語に「ん?」と首を傾けた。

「まぁ、本物は本物って意味なんだけどね」と圭樹が説明をはじめた。


「日本画は当然和紙に描くでしょう? それを表装するとき、巻くのに厚いと紙に負担がかかる。だからそれを避けるために紙を剥ぐの。その時出来る剥いだほうを相剥ぎ本っていうんだよ」


 そんな説明に「へえ」と答えたものの、それがどれほどのものかは、苺には分からない。


「結局、ニセモノ? って!」


 そして同じように理解しない桐谷の頭には、杏の鞄が落ちてきた。


「本物です。それを手がけたのが、葉月弥山先生が手がけているのですから」


 杏の言葉に、美代子は「そう言ってもらえて嬉しいわ」と返し、みんなに座るよう促した。

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