第12話 ただのブドウではありません
「五十鈴川っ、おまっ、警察に出頭したって!? って!」
最後の「って」は、後頭部を思いっきりかばんで殴られたから。その犯人は──。
「ふふ、本当に桐谷君は馬鹿ですね」
お嬢様らしく微笑んでる杏だ。
「表彰されたのです。しかも名乗らなかったのに、警察が調べ上げて押しかけたのです。それで仕方なく表彰されることにしたのです。貴方のお父上は、警察のお偉いさんですのに、これではお父上が可愛そうですわ。もしかして、桐谷君はお耳が悪いのかしら? よろしければ、うちの主治医をご紹介致しましょうか?」
迫力ある笑顔に、桐谷は後ろに仰け反りながら、「け、結構でございます……」と答えた。
蛇足だが、実は桐谷の父親は警察官僚と呼ばれる地位にいる。何気にいいとこの坊っちゃんなのだが、いかんせんお馬鹿なのが玉に瑕だ。
「それに地方ですけど、新聞の取材まで。もう、苺ちゃんったら有名人ですわ!」
「えへ」と照れながら笑う苺に、圭樹だけが笑えない。
「でもねぇ、今回はうまく行ったけど、いつもうまく行くとは限らないんだから。気をつけないとダメだよ?」
そんな苦言に桐谷が「まるで保護者だな」と茶化すから、今度は圭樹に睨まれる。そんな状況にいたたまれなくなって、「えと……」と苺に向いた。
「そっ、そう! そんでなんでその婆さんちまでなんで行くわけ?」
聞かれて苺は「うーん」と唸る。
「渡したいものがあるけど、ぎっくり腰で動けないからって。多分草履の鼻緒が切れたの気にしてたからそれだと思うんだけど……」
それもお断りしたのだが、どうしてもと言われ行くことになってしまった。
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