第7話 反省するブドウ2
「本当にサーセン!」
昼休憩、そう言ってまるで謝罪会見の陽に頭を下げてきたのは桐谷だ。
「わっ! 幻のお好みパン!」
さらにすぐさま差し出されたのは、学校の売店で一番人気のお惣菜パン。
「いいの? あたし、貰っていいの!?」
目をキラキラと輝かせる苺に、桐谷は「食ってくれ」と手渡した。
「それで、どうなったのかしら?」
ニコニコ笑う杏に、桐谷はバツが悪そうに口を開く。
「あー、それがですね」
「はい」
「……まぁ、結局のところ」
「なんですの?」
「……五十鈴川は全く悪くなかった、ということでして」
「それで?」
「……だからですね」
「なあに?」
「……サーセン」
「それ、日本語かしら?」
「……」
助けを求めるように圭樹を見るが、「苺、良かったねぇ」とパンを頬張る彼女をニコニコしながら見つめるばかりで、役にも立たない。
「あー、えと……」
「苺ちゃんっ!」
バンっと開くドアから、苺の名前を叫びながら入ってくる人物が一人。彼女は教室中の視線を集めながら、ズンズンと苺に近づいてきた。
「ごめん! こんなことになってるなんて知らなくて!」
「あ、部長さん」
それは女バスの部長だった。
「苺ちゃんに脅されてレギュラー外されたとか、変な噂が私のところまで聞こえてきて、もう本当にごめん!」
「おほほ、本当ですわ。少し考えれば、嘘だってすぐ分かりそうなものですけど。ねぇ、桐谷君」
杏にそう振られて、桐谷は「あは、は、は……」と笑うに笑えない。
「ちゃんと謝らせるから、今日も部活来てくれる?」
「あらあら、謝罪だけで済まそうなんて」
「これ、お詫びの印」
杏の言葉を遮って彼女が机の上に置いたのは──。
「こっ、これはっ、超希少チーズカレーパン!」
とろりチーズの入ったカレーパンだ。なぜ、それが見ただけでわかるのかというと、普通のカレーパンとは形が違うのだ。普通のカレーパンはすこし三角っぽく、チーズ入りは綺麗な楕円で、更には荒いパン粉のため、表面はザクザクになっている。
実はこの高校、有名パン屋さんと提携して、専用にパンを卸しているのだ。パン屋もトレンドをいち早くゲット出来、高校としても学生のニーズに答えられるという、一石二鳥なシステムなのである。
だから、こんな珍しくも美味なパンも、争奪戦に勝利出来ればゲット出来るのだ。
「た、食べても!?」
苺の手は震え、目はもう潤んでる。
「勿論よ! 暖かいうちに食べて? 昼休憩にダッシュで買ってきたんだから!」
「ありがとう! いただきまーす♪」
「うんうん、それじゃ苺ちゃん、放課後ね?」
「うん!」
カレーパンを頬張って満面の笑みを見せる苺に、女バスの部長もニカッと笑って
「じゃ!」と去っていった。
「……なんだか、不完全燃焼ですわ」
そんな杏の言葉に同調するように、圭樹も苦笑いだ。
「なんか、みんな苺の扱い方知ってるよね」
「ん?」と聞き返す苺に、圭樹は「なんでもないよ」と彼女の頭を撫でた。
「あのね、結局辞めないことにしたっていうか、部長さんが辞めないでって」
「そう」と答えながら、苺の隣を圭樹が歩く。
苺はやっぱり放課後、体育館に行ってちゃんと約束事通り、バスケの部活に出たらしい。
「でも試合はあたしが出ることになって、その子はベンチ入りだって」
「それは悔しいだろうね」
「うん。だから次は実力でレギュラーになるって」
「なれるといいね」
きっとこれが女バスの部長の目的なのだろうことは、誰でも分かることだ。だから苺も「うん」とうなずく。
「あ、でも苺、明日はバスケはお休みだからね?」
「ん?」と不思議そうに見上げる苺に、圭樹はニコリと笑う。
「明日はお茶会だよ」
「……えーと」
「阿闍梨餅は美味しかった?」
「……お、美味しかった」
「それは良かった」
苺は嘘がつけない性格なのです。
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