第4話 甘くない、アン
「あら、今度のお茶会、苺ちゃんも出るんですの」
翌日、そう聞いてきたのは苺と同じクラスの一ノ瀬杏だ。マロングラウンの髪は緩やかなウェーブを保ち腰の位置まで、整えられたきれいな指先、陶磁器のような白い肌に、ほんのり艶めくピンクのリップ。誰がどう見ても『お嬢様』な彼女は、正真正銘のお嬢様だったりする。
「うん。って、杏も?」
その質問に杏はニコリと笑う。
「うちの新作もそこでお披露目ですって」
一ノ瀬グループは飲食店を中心に、さまざまなものを扱っている。元々は和菓子の老舗であるため、お茶会に呼ばれることもしばしば。
「新作!」
その一言に苺の目はキラキラと輝く。
「ふふ、だから拗ねずにいらっしゃいな」
「行くー! 絶対に行くー!」
右手をあげてそう宣言する苺を、やっぱり杏もニコニコと笑顔で見ていた。
「これでいいかしら?」
杏の言葉にニコリと笑って答えたのは、圭樹だ。
「うん、ありがとう、一ノ瀬さん。それで苺は?」
周りに彼女の姿が見えず、そう言えば杏は体育館を指さした。
「昨日のバスケ、いまいちルールが分からなかったから、覚えに行くって仰ってましたわ」
そんな苺の行動に呆れながらも「苺らしいね」と圭樹は笑う。
「不思議ですわ。そんなに苺ちゃんのご機嫌を損ねたくなかったら、お茶会に出さないって選択肢もあるのだと思うのですけど?」
確かにその方がいいと思うのだけど──。
「充希さんが苺のファンだから」
そんな答えに杏は、一瞬ハッとして、それから「ふふっ」と笑った。
「それは分かりますわ。苺ちゃんったら本当にお人形さんみたいですもの。私としては、退屈なお茶会にご一緒出来るのだから嬉しい限りですけど」
そこまで言って、杏は「あら、失礼」とニコリと笑う。
「でも、お気をつけあそばせ? 最近、どなたかおフリになったでしょう? 苺ちゃんの悪口を振りまいてる方がいらっしゃるみたいなの」
「……へぇ」
「私の前でそんなこと言おうものなら、完膚なきまでに叩きのめして差し上げるのだけど」
うふふ、と上品に笑うのだけど、その目は笑っていなくて本気なのが伺える。
因みに彼女はお茶にお花、更には薙刀まで極めた大和なでしこ、だから圭樹も「うん、気をつけるよ」と答えておいた。
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