第2話 苺の敵はぶどう?

「五十鈴川、数学の補講、逃げるなよ?」

「そ、そんなぁ……」


 数学の授業はテスト返しから始まった。そして、赤点は補講決定で、今回は苺だけ。


「すげぇ、支倉、満点かよ」


 桐谷の言葉に、圭樹はニコリと笑う。


「ちょうど復習してたところが出たから」

「……お前、前回のテストもそう言って満点だったよな?」

「そうだっけ?」


 天は二物を与えず、というが与えるところには惜しみなく与えるらしい。それを悟った桐谷は机に伏せて打ちひしがれる苺を見た。


「ってかさ、同じ環境で育ったくせに、五十鈴川はなんであーなんだろうな?」


 そう言って笑う桐谷に圭樹は「でも」と反論した。


「苺は小学校2年まで、自分がクラスで一番偉いと思ってたんだよね」

「は? なんで?」


 その、当時はまだ今より勉強が出来たのだろうか? 桐谷の素朴な質問に圭樹は「あのね」と説明を始めた。


「苺の名字、五十鈴川でしょ?」

「だな」

「クラスの分けの発表で名前が張り出されるじゃない? すると2年まではいつも一番最初に名前があってね?」

「……」

「どうもそれを、成績順だと思ってたらしくてね。いつも僕に自慢してたよ。『今年も一番だ』って」


 懐かしそうに話す圭樹に、なんと返せばいいのだろうか。


「それって、やっぱり五十鈴川は馬鹿だって証明じゃーー」

「桐谷、私の悪口を言うときはその命かけろ」


 ハッと顔を上げると、額にシワを寄せた苺が立っていた。


「五十鈴ーー、違っ、俺はお前の悪口をいってたわけじゃ」

「あはは、桐谷、苺に嫌われちゃったね」

「てめっ、また俺をっ」

「外にでろ! 桐谷っ!」

「ちっ、ちがーうっ!!」


 こうして桐谷くんは苺に敵として認識されたようです。

 あわれ、桐谷。

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