イチゴとケーキの甘い事件簿

桜瀬ひな

第1話 甘いだけじゃない、イチゴ

 ここは蓬莱高校、ちょっと特殊な私立高校だ。

 何が特殊かといえば、勉学だけではなくいろんな才能を延そうと、天才、奇才、変人、もとい、少しだけ風変わりな生徒が多いのです。

 例えば彼女。

 ダンッと高く飛んだかと思えば、彼女はオレンジのボールを放った。

 それは綺麗な放物線を描き、ゴールに吸い込まれていった。


「っしゃー!」


 そう叫んでガッツポーズをとってるのが、五十鈴川いすずがわいちご。髪はストレートボブ、瞳は大きくまるで──。


「五十鈴川って、童謡のアイアイみたいだよな」

「アイアイ?」


 同級生の感想を理解できなくて聞き返せば、彼は、「知らねえの?」とこれまた聞き返す。


「目が大きくてってやつ」

「しっぽは無いけど?」


 真顔でそう答える彼は、支倉圭樹。五十鈴川苺の幼馴染だ。栗色の髪は目にかかるくらい、その容姿はイケメンと言っていいだろう。前髪をかきあげるだけで、周りから小さな吐息が落ちるくらいなのだから。


「お前ね、そこは当たり前だしあったら驚くわ。そーじゃなくて、なんかこう雰囲気だよ」


 呆れるようにツッコミを入れているのは、同じクラスの桐谷不動だ。因みに彼は、幼馴染でもなんでもない、ただの残念なクラスメイトだ。


「……そうかな?」

「そうだろ? ホント動きが猿化してるってーか、ちょこまかしてるし、まーあの目は絶対アイアイだよなー」


 桐谷に、そう言われ圭樹はじっと苺を観察した。


「……ねぇ桐谷、アイアイは珍獣ってしってた?」

「いや……」

「しかも、生息してるマダガスカルでは悪魔の使いと言われてて、見つけ次第殺してたらしいよ」

「……へぇ」

「因みにこれがアイアイ」

「──っ!?」


 圭樹がスマホで見せたのは、実写版アイアイ。その姿はまさに『悪魔の使い』が相応しい、禍々しい姿だった。

 桐谷がその画面に絶句してる間に、試合終了の笛がなる。そして、礼を終えた汗だくの苺もバスケットコートから戻ってきた。


「苺、お疲れ」


 笑顔で出迎える圭樹の言葉に、苺も「疲れたー」とベンチに座り込んだ。


「あ、さっきね、桐谷が苺はアイアイに似てるって」

「アイアイ?」


 圭樹と苺の会話に「まっ、待てっ!」と桐谷は慌てるが、圭樹の手からスマホが苺をに渡る。


「……これ?」

「目なんかそっくりだって」

「わー! 違うっ! 俺が言ってるのは童謡のアイアイでっ」

「似てないっ!」

「ぶっ!!」


 それは見事なプロ顔負けのアッパーが、桐谷君の顎に炸裂しました。

 そしてドスドスと更衣室に歩いていく苺。


「うーん、苺はボクサーの素質もあると思わない? 桐谷」


 その後ろ姿を見守りながら、圭樹は嬉しそうにそう褒めるが、桐谷は床に崩れ落ちる。


「支倉ぁ……、ハメた、な……?」


 そんな桐谷の遺言は、完全スルーで部活の時間は終わりを告げた。

 彼女の名前は五十鈴川苺、学園で知らないものはいない運動神経抜群でどんなスポーツもこなしてしまうワンダーウーマンなのです。

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