第12話 序章の終わり 物語の始まり
「また、お会いしましょう」
学園長は割と早く帰ってきたため、結局俺は彼女に再びマッサージをするような事はなかった。
良かった良かった。
そして俺は学園長に連れられて学園へと戻って来た。
やっと授業を受けられる、そう思っていたのだがしかし学園に人の気配がない。
どういう事だ?
そう思っていると、学園長は呆れたような表情で言う。
「学園はしばらくお休みじゃよ」
「へ?」
「あんな事があったからのう。黙祷という意味もあるし、それにショックを受けている生徒も少なからずいる。だから、しばらくは皆休んで貰う事にしたんじゃ」
「ああ、そういう……」
学園がいきなり戦場になったのだ。
そもそもこの学園は生徒達を戦士へと仕立て上げる為に作られたものとはいえ、生徒達、特に一年生達はまだそう言う事に耐性はないだろう。
俺もその内の一人だ。
だからいろいろとショックを受けて立ち直れていない人もいなくはないに違いない。
「教師も生徒も決して少なくない数を失ってしまった。だから授業を続けるのが困難な授業もある。だからこそそれの調整も必要だからって理由もある」
「学園は、この後どうなるのでしょう」
「どうにもならんよ。変わらず、魔族に対抗するための戦士を産み出し続ける――それがこの学園の存在する意味じゃ。本来は逆の目的のために生み出されたのじゃがな」
「そう、なんですか?」
「ああ、そうじゃ。かつてこの世界には半端な知識と力量を持っているが為に勘違いした結果、戦死をした者が数多くいた。そのような者を減らすためにおおよそ200年ほど前に私が設立したのがこの学園じゃ」
「そう、だったんですか」
一瞬頷き掛けたが、しかしちょっと待てと思った。
「200年前?」
「ああ、そうじゃ」
「そんな昔から学園長って生きてたんですね」
「これでも一応最初期の勇者と同時期に産まれたからのう」
「……それってつまり」
「ああ、そうじゃ。私もお前やアイリス王女と同じ、融合戦士なんじゃよ」
「融合戦士……」
やっぱりかと思った。
これもまた原作をプレイしていても出てこない情報だったが、しかし人間以上に長生きするためにはそうでなくてはならないだろう。
「学園長は何の因子を取り組んだのですか?」
「エルフ、そしてドラゴンじゃ」
「ど、どらごん?」
「エルフは手先の器用さを、そしてドラゴンは私に強靭さと魔力をもたらした。お陰で勇者とも普通にやり合えるほどだったんじゃぞ、これでも」
「それは、はい。信じますけども」
「だがまあ、融合戦士の誕生は人類と魔族との戦いに一石を投じる事になったが、しかしその波紋は至る所に影響を与える事となった。例えば、エルフとの交流もその一つじゃ」
「確か、戦争の間に交流が行われなくなったんですよね。それも融合戦士の誕生と何か関係が?」
「融合戦士に自身の肉体の因子を使われた事に対し、エルフの高潔な血を汚されたと思い激怒した彼等は人類と一方的に交流を絶ったのじゃ。まあ、さもありなんって感じじゃがな」
「それは確かに、怒りそうですね」
そしてそれ以外にも人類は多大な犠牲を出してきたのだろう。
それこそ吐血しながらも走り続けてきた人類は、今やどうして生きているのか分からないような状況だ。
どうして魔族と人類は戦っているのか。
それは結局原作では語られなかった。
まあ、本来は抜きゲーよりのエロゲなのでそんな情報は所詮無駄な知識でしかないので語られなかったというのが事実だろうが、しかしそのゲーム世界の登場人物になってしまった以上、そこの設定については知っておきたかった。
未だに魔族は人類を滅ぼそうとしている。
しかし理由なくしてそんな事をするだろうか?
魔王は一体、何を考えているのだろうか?
……それも、ただの戦士でしかない俺は知らなくて良い情報なのだろうか?
「ああ、それと」
と、そこで学園長はたった今思い出したと言わんばかりに手を叩く。
「お主、ジョンよ。これから生徒達は数週間休みになるが、それでお前も暇を持て余す事になる」
「それは、そうですね」
「暇なら、私が一つ稽古をつけてやろうかの?」
「稽古?」
「こうして魔族が学園に直接突貫してきた以上、これからもそのような事がないとは言い切れん。その時、お前は再び剣を手に取り戦う事になるだろうからの。その時の為に、お前を私が直々に鍛え上げてやろうって話じゃ」
「それは、なんて言うか」
俺は考える。
本音を言おう。
戦いたくない。
そんなの俺の知らないところでやってて欲しい。
俺は平和主義者――いや。
むしろこう言うべきだろう。
傍観主義者。
戦いとは無縁の生活を送っていたい。
だけども――
「俺が戦わなくちゃ、死んでしまう人もいるんですよね」
「いや。そんな事はないよ、残酷な話じゃがな」
学園長は頭を振る。
「お前が戦いに参加しないと分かっているならば、そうと分かった上で防衛を行うだけの事、それだけじゃよ。所詮勇者と言っても強大な人的戦力の一つでしかない。欠けた穴を塞ぐのは大変じゃが、しかし出来ない訳じゃない」
「でも、俺は」
俺は、答える。
「俺が抜けた結果、その穴埋めをする人達がいるんですよね」
「それは、勿論」
「それじゃあ、俺は。無視出来ませんよ」
イヤだけど。
戦いたくないけど。
だけど、見て見ぬ振りは出来ない。
「お願いします、学園長。俺に稽古をつけてください」
「……その答えを待っておったよ」
学園長は笑う。
俺も笑う。
笑って、この辛くて苦しい現実から目を逸らす。
逸らして、明日もまた頑張れるように。
俺は戦場へと続く道を一歩、踏み出すのだった。
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