第11話 融合戦士
「勇者様。貴方は『融合戦士』と言う言葉をご存じですか?」
知っている。
しかしこのジョンが知っている筈の情報ではないので、俺は「なんですか、それ?」と答える事にした。
そしてその返答は彼女にとって想定内だったのだろう。
アイリスはさして気にする事もなく「融合戦士とは」と一人語り出す。
「かつての人類の叡智の集大成とも呼ぶべき存在です。人類と魔族は数百年もの間戦いを繰り広げていますが、その間に人類は一度敗北寸前にまで追い込まれました。それは、貴方も知っていますよね?」
「ええ、それは。そしていざ敗北するといったところで勇者が現れ、戦況を覆したとか」
「しかし、そのような物語みたいなご都合主義な展開が起きた訳ではありません。正確には、勇者は現れるべくして現れ、そして人類を勝利へと導いたのです」
そこでアイリスは一度言葉を切り、窓の外へと視線を送る。
窓。
しかしこれは果たして本当に窓なのかどうか、俺にはまだ分からない。
外の景色が映ってはいるもののその景色は俺の知らないもので、だからこそここは学園外にある場所なのか、はたまたただテレビのように映像を映しているだけなのか、分からなかった。
「最初に結論を言ってしまいましょう。勇者とはかつて人類が作り出した存在、即ち融合戦士と呼ばれるものなのです」
「融合戦士……」
「融合戦士とは、人の身体に異なる生物の因子を取り込ませる事により、新たなる力を開花させる事に成功した、新人類とも呼べる存在でした。そして勇者が取り込んだ生物とは――」
彼女は意味ありげな笑みを浮かべながら言う。「複数の聖獣の因子です」
「ユニコーンにペガサスなどの聖獣の因子を取り込んだ融合戦士、勇者。勇者は貴方も知っている通り人類以上の戦闘能力を持ち、そして『聖剣作成』などのスキルを得る事に成功しました」
「一つ、疑問があります」
「……聞きましょう」
「勇者と言っても、所詮は単一の戦力でしかないじゃないですか。それだけで、魔族と人類の船側が好転するとは思いません。そして融合戦士というものの性質上、それらは他にもたくさん存在していたのではないですか?」
「その通りです、察しが良いですね?」
にこりと微笑み、「正解です」と言うアイリス。
「実際、融合戦士はかつてたくさんいました。その中でも勇者は最も強く、優れた『最高傑作』として人類に勝利をもたらし、そして最終的に今までその血筋を残してきました。逆に、他の融合戦士は人類と魔族との戦争の間でほとんどが死んだのです――ですが」
当然、例外もあります。
そしてその例外を、俺は何となく察していた。
いや、原作には登場しない設定だけど、多分裏設定として存在していたのだろう。
それならば、諸々の謎も納得出来る訳だし。
「王族。かつて王族は戦争を統率する者として、率先して融合戦士となりました。そして、彼等が取り込んだ因子は――魔族のものでした」
「魔族……」
「オーガ、悪魔、そしてサキュバス。オーガは力を、悪魔は魔力を、そしてサキュバスは人を統率するのに必要な魔的な魅力を。融合戦士となってそれらを手にする事により、王族は見事魔族を排する事に成功しました」
「……」
「そして今、時代は移り行き今は現代。私もまた王族であり、融合戦士の血脈を受け継ぐものです。ですが、私はその中でも特にサキュバスとしての能力を強く受け継いでいるみたいなのです」
いわゆる、先祖返りみたいなものでしょうか?
彼女は少し首を傾げて困ったように言う。
「人を強く引きつけ、魅了する能力。聞こえはいいですが、しかしその正体を知っている人間からしてみれば、それは嫌悪するべきものなのでしょう」
「嫌悪……」
「貴方は、どうですか?」
彼女は。
アイリスは。
目を伏せ、どこか甘えるような、それこそ魅了するような声色で俺に尋ねてくる。
「私が嫌いになりませんか? 貴方が私に感じているであろう感情がすべて偽物だとしたら、それを押し付けたであろう私を、嫌いにはなりませんか?」
「……」
俺は。
一度口を固く閉じ。
それからゆっくりと開いた。
「アホか」
「……へ?」
俺の言葉に、彼女はきょとんとする。
目を丸く見開くアイリスに俺はまくし立てるように告げた。
「生まれだのなんだのってのを考えてたらきりがない。だって人間は誰しも血筋血脈に支配されているんだからな」
「それは、でも」
「見た目、容姿。髪の色や瞳の色、それこそ身体能力だってそれらに影響される。俺達融合戦士の末裔だけが特別じゃあないんだ」
だから、アイリス。
俺は言う。
「貴方は特別じゃない。どこからどう見ても、普通の女の子ですよ」
その言葉にアイリスは少し呆然とし。
ぽかんと間抜けに、普通の女の子のような表情をし。
それから、くすくすと笑い始めた。
「ふ、ふふ。そ、そうですか! 私が、普通の女の子、ですか!」
「そう、ですよ。俺からしてみれば、普通にそう見えますって」
「あは、なるほどなるほど。貴方はそう言う人間なんですね勇者様。想定外で予想外で、そして何より喜ばしい」
ひとしきり笑った末、彼女は「ふーっ」と大きく息を吐く。
そして俺の瞳をじっと見つめてきて、言う。
「ありがとうございます、勇者様。貴方との会話は、私にとってとても有意義なものだった」
「そう、ですか」
「とても面白かったです――その、これは私の我儘なのですが。また、こうして会って話せますかね?」
「さっきも言った通り。貴方の退屈を紛らわせるためならば、何度でも会いに来ます」
「ふふ、ありがとう――とここで良い感じに話を終わらせたいですが、しかし肝心のグラーがまだ帰ってきません。なので、まだ貴方にはここで時間を潰して貰いましょう」
「え゛」
少し固まる俺に対し、彼女は再びくすくす笑いながら言う。
「もう一度、私の身体をマッサージします? 何なら、腰とかも触れて貰って構いませんよ?」
「え、遠慮します!」
相手が王族の女子の身体に触れると言うのは、やはり難易度が段違いだった。
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