第11話 フェアレディZ
「フェアレディZ」
ワシは「Z」が大好きです。
無理して買ったGTRよりも、すぐに手放したポルシェよりも、もちろん仕事よりも焼き肉よりもメロンよりも寿司よりも、ワシは「Z」が好きです。
「なしてそんなにZが好きなんか。」
とよく聞かれます。
「なして好きなんでしょうかねえ。」
考えてもそんなに明確な答えは見つかりません。でもなんとなくなら答えられるような気がします。ワシはその理由を改めて考えてみたのです。
まず浮かんだのが「名前」がええことです。
短くて、くどくなくてすぐにわかって、発音がカッコええところが好きです。
「明日、Zで迎えにいくね。」
なんかイキでカッコええなあと思います。
「明日、スープラで迎えに行くね。」
じゃあ締まりがなくてしっくりこんような気がします。
「明日、レクサスで迎えに行くね。」
じゃあちょっとイヤミったらしいしなあと感じます。
あくまで感覚の問題なのですが、ワシはやっぱり「Z」の方が決まるような感じがするのです。
それから見栄えがするというかコンフォートなところかなあ。
ガレージに停まっていても、街中で乗っても、海岸通りを走っても高速を走っても、それから隣にレクサスが並んでも見劣りしないとワシは思っています。存在感があって精悍で高級感もちょっとあって、いろいろな場面に似合うというか、カッコええところも気に入っています。
またちょっと高級なホテルの玄関に乗りつけてもそれなりに決まりと思うし、場違い感も皆無だと感じています。
ゆっくり走っても絵になるし、雰囲気もあるし、鞭を入れればアクセルひと踏みでイメージ通りに疾走するし、肝心の走りに関してもあまり不満を感じたことがありません。
不満がないかと言えばないこともないのですが、それを補ってもなおええなあと思うことの方が多いのです。
はっきり言って、他にもええクルマはあるし、Zよりも速いクルマもあるし、カッコええクルマもたくさんあると思います。でもワシは「Z」がやっぱりええのです。
確かに荷物は積めんし二人乗りだし、燃費はそんなに良くないし、乗り降り駐車、けっこう気を遣って疲れるし。
でもそこにあるだけで、ガレージにZがあるだけで、日々の嫌なことも忘れて夢を見ることができる。気持ちが盛り上がることができる。若返ることができるような気がして、ワシにとっては「Z」が唯一無二の存在であることは間違いありません。
ワシは今まで4台の「Z」を所有しました。
最初のZは「Z32」の2by2のNAの4ATのシルバーのバージョンRでした。Tバールーフでした。長距離乗っても楽ちんでした。Tバールーフは一度も開けたことはなかったのですが、見るたびにカッコええなあと思っていました。
2003年に買った「Z33」の6MTのシルバーのノーマルバージョンは、ちょうど300万円でした。乗り心地や操作感が荒くて不満はあったけどよく曲がるクルマでした。
3台目は「Z34」の7ATのバージョンTでした。例のプレミアムルマンブルーの内装グレーの本革のパワーシートやボーズサウンドシステム付で豪華仕様でした。この7速ATは、ダイレクト感がすごくて、不満を感じることがないぐらいよく走りました。色以外はとても気に入っていました。
それから現在所有している6MTのダークブルーのバージョンSTです。19インチの鍛造ホイールと赤いブレーキキャリパーで「武装している」という感じです。ついでにリアスポイラーもつけました。内装グレーでもちろん本革のパワーシートやボーズサウンドシステム付です。どうせローン組むなら一緒だと、何も考えないで最高グレードの「ST」を買いました。不満点はあまりないのですが、デイライトの消灯ができないことと、燃費がどうあがいても先代のATに勝てないことです。よくできた「シンクロレブコントロール」がワシの下手くそなシフトダウン時のダブルクラッチを補ってくれるので助かっています。
けっこう名が知れているのでメディアでもよく登場します。
NHKプロジェクトXの「運命のZ計画」。
面白かったです。ワシはDVDを買いました。
楠みちはるさんの「湾岸ミッドナイト」イニシャルDよりも好きです。
もちろん全巻持っています。また実写版のDVDも全部持っています。大鶴義丹が主演の初期の作品が一番好きで、何度見ても面白いなあと思います。ミッドナイトブルーの「悪魔のZ」。S30Zもたまらんです。
ワシは人生に疲れた時や「Z」を手放そうと思ったときには、これらを見ることで、いい歳こいて気分を盛り上げています。
「フェアレディZ」
他のクルマにない何かがあるように思います。歴史というかなんというか。
クルマにあまり興味のないおばちゃんお姉ちゃんたちも「Z」は知っていました。
友達がクルマを買って見せびらかしにやって来ても、「ええのう」とは思うけれど「うらやましい」と思ったことは一度もありません。だってワシには「Z」があるし「Z」の方がええと心底思っているのですから。
ひとつ前の34ZのバージョンTを手放したときのことです。
ワシは魂が抜けたみたいになって、ガレージに行くのがイヤでした。グローブもニスモのジャケットも、DVDも漫画もすべて箱に入れて封印して、もう二度と開けることはないと思いました。見たくなかった。辛かったのです。ものすごく後悔しました。クルマの本を買うのもクルマを見るのもクルマの話をするのもイヤでした。
それから2年後にがまんできなくなったワシは、飢え死に覚悟で今の34Zを再び買いました。ワシは封印した段ボール箱を開けて、Zのグッズをまたもとの位置に戻しました。これからの生活を考えると不安もありましたが、そんなことはどうでもええと思いました。嬉しかった。とにかく嬉しかったのです。
ガレージの掃除をしてから「Z」を入れました。あるだけでガレージの空気が違うなあと思いました。
34Zは、スポーツカーぽいなあと思います。歴代のどのZよりもスポーツカーに近い感じます。日産が本気で「走り」を意識して作ったクルマだなあと思います。
エンジンをかけた直後のアイドリング音はノーマルとは思えないぐらいの荒々しさです。こんなクルマは初めてでビックリしました。日産の本気を感じました。アイドリングが落ち着くと普通に戻ります。それから加速時のサウンドが最高です。3700CCだけど7500のレッドゾーンまで軽々と回る。たぶん今までの日産車で一番、高回転までウオンと回る気持ちいいエンジンです。それから、それから。もう思いつくままに羅列するしかない。
走ると最高に気持ちいい。
でも乗り降りがたいへんで狭い道が走りにくい。
いちいち出すのが面倒。入れるのも面倒。
雨の時は乗りたくない。汚したくない。傷めたくない。
気を遣う。特に狭い駐車場。
洗車は汚れたら手洗い。タイヤハウスまで洗う。
乗ったら毛ばたきで埃を払って毛布かけてカバーかけて車庫保管。
ガソリンはエネオスのハイオク。オイルは日産純正。整備点検は半年ごとに必ずディーラーで実施しています。(点検パックならお得!)
車内では飲食しない。掃除機かけて薄い中性洗剤水溶液につけたタオルを絞って拭くだけ。ガラスだけは専用ケミカルを使用。汚い靴で乗らない。専用のドライビングシューズで運転。車内にはオメガスピードマスターとレイバンのサングラスと最近は レイバンの度付きサングラスを常備。乗る前に装着して気分を盛り上げるのです。
安全運転。無理はしない。変なクルマには道を譲る。けっこう威圧感があるので、あおり運転と誤解されないように車間を空ける。
飛ばすのはそれなりの場所。ちょっと踏んだら100キロオーバーする俊足。低速トルクも太いので、5速入れっぱなしでも何の不満もなく走る。動力性能がずば抜けている。あの小さい車体に3700ccの340馬力のエンジン。車体のほとんどがエンジン。エンジンを運ぶようなクルマだと友達は揶揄する。でも低く搭載されていて本当にすっと曲がる。
コーナーリング性能は未だに超一流だと感じる。アクセルで向きが変わる。ブレーキも良く効く。最近ではないクルマ。古いクルマ。でも古き良き時代のクルマだと思う。
スープラに乗ったけどあんまりときめかなかった。クラウンのクーペのようであまり欲しいとは思わなかった。RX-7もしっくりこんかったしランエボも3カ月所有したけど何か違うように感じた。やっぱりワシには「Z」が一番しっくりくるのです。
とうわけで、ただの還暦じいちゃんの独りよがりになってしまいましたのでお許しください。
新型のZがもうすぐ発売されるようです。ハイテク満載のツインターボの新型Z。どんなZになるのでしょうか。興味深々です。発売されたカタログを貰いに行って、実車があったら試乗させてもらって、それから掲載されている雑誌やモーターファン別冊の「すべてシリーズ」を2冊買って(1冊は保管用)楽しみは尽きません。
でもワシは、たぶん来年の1月に車検を取って、ばらまきおっさんに不本意ながら高い税金を収めて、今のZにしばらく乗り続けようと決めています。情が移ってしまったのか別れがつらい。誰かが新しいオーナーになって、改造したり野ざらし保管したり、汚くしたり乱暴に扱ったりしたらきっと心が痛むと思うのです。生活を切り詰めて飢え死にしない程度に何かを食べて、それから時々Zを出して、もっともっと一緒にいろんなところを走りたいというのがワシのささやかな願いです。
他のクルマに絶対に迷惑をかけない、イヤな思いをさせないように気を遣いながら、Zにふさわしいジェントルな運転をする。Zの名を汚したくない。Zのドライバーとしてマナー優先で安全運転に心がけたいと思っています。
「なしてZ」が好きなのか。
自分でもあんまりよくわからなかったのですが、ワシにとって「Z」は無二の存在であることは確かなのです。
「Z」には「Z」だけの世界があって、そういうときめきを存分に味わわせてくれる、まるで信頼できる親友のような、あるいは気心の知れた彼女のような存在なのです。ワシにとってのそんなクルマは「Z」以外にはあり得ないのです。
「日産フェアレディZ」「貴婦人Z」
ワシは死ぬまで愛し続けたいなあと思っています。年齢的に無理かもしれませんけど(_ _;)
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