第12話 楽しかったクルマたち

「楽しかったクルマたち」


 こういうことを書くのは、よく考えてみたらワシがいかに「貧乏性」かということを全国のみなさんに披露しているような気がして多少なりとも抵抗があるのですが、それでも本当に「楽しかった」のですから仕方がありません。


 ワシはものすごく無理をして、平成4年にR32のGTRを買いました。でもいろいろな場面で無理が生じて、はっきり言って持て余し気味になってしまったという話ことは以前お話しした通りです。当時はアパート住まいで青空駐車場で、それからすべての用途をGTR1台で何とかしていたため、貧乏性のワシにとってとても苦しい毎日でした。

 そんときに、確か10月だったと思いますが近所の中古屋さんで10万円の赤いアルトを見つけたのでした。ワシはさっそく見に行きました。

何年落ちか忘れましたが、走行2万弱、エアコンはついていなかったのですが思ったより程度が良くて、ワシはさっそく契約して、GTRは友達のところのガレージにしまい込んで、毎日乗り始めたのでした。

 「小林麻美」がCMをしていた2代目アルトでした。なんと回転ドライバーズシートまでついていて、もちろん4ナンバーで税金安くて燃費も良くて(31.2km/Lの低燃費を実現。当時の国産ガソリン商用車No.1)、4MTを駆使して走ると、これが驚くほど速かったのを憶えています。

 何よりも惜しくない。早速イエローハットにタイヤを交換しに行ったのですが、一万円でおつりが来たので二度驚きました。それからはもう毎日アルト三昧の生活になりました。通勤はもちろん、遊びに行くときも友達を迎えに行くときも実家に帰るときも、一人で乗るなら何の不自由もないのです。

 それから自分でバッテリーを交換したり、オイル代えたり、内装を徹底的に掃除したり外装をピカピカに磨いたり。

 何より重宝したのは、ワシの意識の問題ですが、どこまで走ろうが悪路に踏み込もうがちょっと整備に失敗して壊れようが、狭い駐車場にギリギリ停めようが路駐しようが、とにかく惜しくない。いらん気を遣わなくていい。便利で使い勝手が良くて「本来クルマというものはこんな便利で楽しいものなんだ」と目からウロコが落ちる思いでした。

 そのうち、だんだんとこの便利さに味を占めてしまったワシは、GTRのことはすっかり忘れて、なんとデートの時もアルトで行くようになりました。相手の人はええ迷惑だったと思いますが、ワシはそんな生活がすっかり楽しくなってどんな時もアルトで出かけるようになりました。

 結婚式の送迎を頼まれて着物を着た女の子を迎えに行った時もアルト。ちょっと遠くにドライブに行くときもアルト。ああ自動車ってこんなに楽しいのかと思っていました。

 やがて年が明けて春が過ぎて夏がやってきました。

 バカなワシは、エアコンがなくて暑くて耐えきれなくなり、こんなに愛したアルトを売って、またまた借金して新車のセルボモードMセレクションというエアコン付きの軽自動車に買い替えてしまいました。

 今度のはエアコンがついていて5MTでパワステ、パワーウインドウまでついていて、たぶん70万円を切っていたと記憶しているのですが(当時の軽は安かった)、ワシは車庫にしまいこんであるGTRのことなどすっかり頭から消えていて、さっそうとセルボモードに乗り始めたのですが、これがまったく楽しくない。ええクルマなのに楽しくない。

 なしてでしょうか。なしてなんですかね。


 それから5年後のことです。

 ワシは凝りもせずに7月に中古の33GTRを衝動買いして、セルボモードを下取りに出してしまったので、同じように1台体制で10月まで乗っていたのですが、同じように持て余し気味になってしまいました。気を遣ってしょうがない。2度目ですね。2度目。ワシはまったく学習していない(泣)

 ワシは知り合いの中古屋さんに頼んで、コミコミ10万円のクルマを探してもらうことにしました。

今度のは黒いスターレットSiのATの走行3万キロの何年落ちか忘れましたが、年式の割に程度がええような気がして、まあ外装内装それなりでしたが、走る部分に関してあまりやれていないような気がしました。

 乗ってみるとこれがまた楽しい。よく走る中は結構広いし燃費はいいして、これまたとっても楽しくて、例によってGTRは車庫にしまいこんでスターレットばかり乗るようになりました。楽しかったのう。ええクルマじゃったのう。スターレット。

当時は60km1時間の遠距離通勤でしたが、オドメーターがいくら増えても平気の平左で精神的にも負担にならなくて本当にいいクルマじゃったと思います。


 それからさらに数年後のことでした。ワシは用事があって三菱に行きました。そしたら、また出会ってしまったのです。

 1993年9月発売モデルECIマルチ直列4気筒SOHC16バルブ659cc。じゃったと思いますが、ようするに下取りで入ったばっかりの丸っこい5MTのインジェクション仕様のミニカを見つけてしまったのです。ちょっと汚れていましたが走行3万ぐらいで程度が良さそうでした。知り合いのセールスさんに交渉してみたらコミコミ10万円でええですと言われました。ワシはそのミニカが欲しくなって買うことになりました。

 このクルマは良く走りました。元々550cc仕様のボディに法改正で660ccになったエンジンが乗せてありました。気軽に乗れて軽くて燃費も良くてどこ走ってもどこまで走っても惜しくない。ワシは自分でコツコツ整備したりボディを磨いたりタイヤとバッテリーを安く交換したり窓にフイルムを貼ったりして楽しみました。失敗しても惜しくない。やり直せばいい。懐もあんまりいたまない。整備する楽しみ。きれいにする楽しみ。だんだん良くなっていく楽しみ。そんな楽しみをたっぷりと味わうことができました。

 例によって、それからミニカばかりに乗るようになりました。燃費もええし5MTで軽くてよく走るしエアコンもついているしで無敵でしたね。無敵。カセットとラジオまでついていてこれ以上なにもいらんかったですね。

 前にも書きましたが調子に乗って山口に乗って行った帰りに、猛吹雪に遭遇してホワイトアウトの恐怖を味わいましたが、安いスタッドレスタイヤでも不安なく走ってくれましたし、一泊二日で九州まで平気で走ってくれました。ミニカ。楽しくて気さくで?ええクルマじゃったと思います。


 以上の3台がワシにとってとっても楽しかったクルマです。

 なしてかというと。

 それは貧乏性のワシにとって精神的にも経済的にも「余裕」のあるクルマだったからだと思います。「壊れたら捨てればいい」「損しても10万円」「10万円だから楽しめる」そんなワシにぴったり合った身の丈に合ったクルマだったからだと思います。

 無理してローン組んで高いクルマを買わなくても、クルマは十分に楽しめる。そんなことを教えてくれた愛すべきクルマたちだったと思います。

 クルマはいろんな楽しみ方があります。クルマは本当に奥の深い機械だと思います。出会いがあって「縁」があって、そんな人間のような存在であることも不思議なところだと思います。


 クルマはいくつになっても楽しいです。いつでもだれでも楽しめます。クルマは素晴らしい乗り物だと思います。

 この3台のクルマは本当に楽しかったのうと思っています。

新車を買って大切に乗ることも楽しいことですが、クルマを「ツール」として楽しむ方法があることを教えてくれました。気を遣わない。どこでも気軽に乗っていける。駐車場が混雑していても狭くても平気で停められる。狭い道でも山道でも雨でも雪でも台風でも乗っていける。あちこち自分でいじくって、安いパーツを調達してきて自分で修理修繕できる。そんな洗いざらしのジーンズのようなクルマたちだったと思います。

 ワシはもしかしたら高級車よりも新車よりも、そういうクルマが本来大好きなのかもしれません。

「貧乏性」のワシにとって何よりも楽しい時間を過ごすことができたと今でもおもっています。


 またどっかに安い中古車はないかのう(笑)


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