魔女と呼ばれた同族殺し

朝兎

黒獣

--12月22日 午後18時--

「うーん...おれがやる仕事か?これ」

「まぁまぁ...そう言わずに頼むヨ」

ここは都内某所にある蓮田市のカフェ

平日の昼下がりであるためか店内はまばら

ながら居る人達で多少なりにも賑わっている

その店内には不釣り合いな男女2人組が

静かに話し合いをしていた

1人はピンクの髪に黒いスーツを着た

サラリーマンらしい男性ともう1人は

純白の着物に黒いトレンチコートを着た

紅い髪の少女らしき人物の2人だ

「だがなぁ…たかが人探しを手伝えなんて

おれじゃなくても出来る仕事だろ?

探偵なり王海桐ワンハントン...お前の部下なり使えば済む話しじゃねぇの?」

紅原くれないばらさん...何度も言うようだガ...私の部下は今仕事で出払っていて使えないんダ。

探偵も...私は信用出来ないから...

使いたくないんだヨ。頼りは君だけなんダ」

ピンクの髪の男性...

王海桐と呼ばれた男がそう答える

「だがなぁ...」と紅原は眉をひそめる

「頼むヨ...報酬はしっかりと出す」

と王は持参したであろう金属製の鞄を

取り出し紅原の前に出す

「はぁ...お前はおれってやつを何も

分かっちゃいない...そんなんで釣れるほど

おれってやつは...」

「...これを見ても...それが言えるカ?」

王は1枚の写真を取り出す。そこに

写っていたのは赤い髪に

黒いキャソックを着た男性だった

遠くから撮ったのかピントはズレている

「...なるほどな。だからおれ

助けを求めできたと...」

「あぁ...君ならこの人物が誰だか

分かるだロ?...これは君にしか

頼めないんダ...」

王が真剣な眼差しを紅原に向ける

瞬刻、2人は見つめ合い紅原がため息をついて

「分かった分かった。受けるよその依頼

そいつ関係だとおれ以外じゃ

厳しいしな。」

その言葉を聞いて王の顔に笑顔が溢れる

「いやぁ〜話しが早くて助かるヨ!では

よろしく頼むよ紅原先生?」

「冷やかしは辞めろ...お前が言うと

サブイボが立って仕方がない」

「ははは...これは失礼した...

まぁ君しか頼れないし期待しているヨ?」

「勝手にしろ...おれおれ

したいようにするだけだからよ…」

「あぁ〜それで構わない。では早速...」

紅原と王は情報交換をしながら談笑をする

時計の針が時を刻む音が静かな店内に響いた

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--12月22日 午後20時--

「...ここか」

紅原は市内のビル街...そこの薄暗い路地裏に

立っていた。辺りに人影は無く

静寂に包まれていた

「あいつが渡した地図だとここだが…」

辺りをキョロキョロと見渡すと鼻腔に

こべりつく違和感に気づく

「...この匂い。いやぁーな予感がするなぁ」

祈るようにその匂いを追いかける紅原は

目の前に広がった惨状にため息を漏らした

「...やっぱり当たるよなぁ〜本当に...」

そこに居たのはバラバラになった肉塊だった

またその肉塊は酷い死臭を辺りに放っている

「まぁ...とりあえず...」

しかし紅原は冷静だった。見慣れているのか

その肉塊の周りの壁に手をついて

「まぁ...これなら...いけるか…」

と赤いチョークを取り出しバツ印を四方に

書いていく。そしてなにやら呟く

「良し...準暇はできたし…始めるか」

紅原は肉塊に手を合わせ調査を始める

ふと肉塊の近くにある財布を手に取る

雨野照明あまのてるあきか...あいつ...

本当に趣味悪いな...だが...」

紅原が考えていると入り口の方から声がする

「...現場はここか?」

「はいっす!そう通報が入ったっス!」

「...うるさ。時間考えろよ」

「あっ...すまないっす!」

「だから!はぁ...もういいよ...早く調べて

帰るぞ?...寒いし」

「了解っス!」

警官らしき服装の2人が紅原の居る路地裏に

入ってくる。紅原は静かに二人を見ている

「まじか...ダルいな」

紅原は静かに舌打ちをする

「あまり使いたくねぇーけど仕方ねぇか」

紅原は先程の赤いチョークで空中に

なにやら文章を書く。

「子供のために鳴らす鐘」チャイルドリングベル

紅原が空中に書いた文章を静かに呟くと

警官らしき服装の2人組は

「帰らなきゃ...帰らなきゃ...」

と入り口の方に戻っていく

体はゆらゆらと振り子のように揺れていて

足はフラフラと酔っ払いのように歩いていく

まるで操り人形のようだった

「...悪ぃな...だがまぁ...許せ

...とりあえず邪魔者を消えたし」

とまた紅原は調査を再開する

「これって...」

紅原は隅っこのゴミ箱近くにある物が

落ちてるのに気づいた。それは黒く

ドロっとした体液のような物だった

「ドロっとしたこの感覚...そしてこの匂い...

面倒臭いことになったなぁ〜本当に

まぁ...あとやれることするか...」

と紅原はまた空中に文章を書く

「繰り返される生死映像」リピート

と唱えると紅原の近くにある肉塊は人の形に

戻り動き始める。バラバラに刻まれ

また元の肉塊に戻る。そんな異様な空間が

紅原の目の前に広がっていた

またバラバラに刻まれる時黒い犬みたいな

何か複数体が雨野照明あまのてるあき

噛みつきそのまま噛み砕くように

バラバラにしていた

「うーむ...大体分かったが…やっぱりこれは

あれか...?だが...あいつがあれを使えるとは

思えない...だとしたら誰が...」

ふとまた紅原は入り口の方になにかの気配を

感じ振り向く。そこには黒い犬の様な物が

視界の隅に映った。それは紅原を睨みながら

低い唸り声を上げ威嚇しているようだった

「ちっ...ふざけんなよ...」

と紅原が構えた時それは煙のように

風に溶けていった

「...ビンゴかよ...はぁ〜」

ため息をつき路地裏から大通りに戻る

雪は降り始めていた

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--12月23日 午前11時--

「ふぅ...久しぶりにやると疲れるなぁ」

紅原はカフェで一息ついていた

「まぁ...昴は喜んでたみたいだし良いか…」

赤い革の手帳を流し見しながら静かに呟く

聖母の加護マリアブレスくらいは教えといてもいいか...

昴...貧弱だしな...だがなぁ...」

紅原が1人頭を悩ましていると電話が鳴る

発信先を見て紅原は軽くため息をつく

「...なんだマコちゃん?関わらないん

じゃなかったのか?」

「そんなこと今はどうでも良い!

...なんであんたのとこの関係者が俺に

会いに来てるんだ!」

マコちゃんと呼ばれた電話相手は

怒りを込めながら紅原に怒鳴り声をあげた

「あ〜うっさいうっさい!別におれじゃなきゃ良いだろ?カルシウム足りてねぇのかよ…」

紅原は呆れながら言い返す

「そういう問題じゃないだろ!

約束と違うじゃねぇかよ!」

「約束って...あれはマコちゃん...お前が勝手にそう言っただけだろ?

おれはまだ返事しちゃいねぇぞ?」

「だからなんだよ!ちゃんとあんたの

サインもあるんだぞ!」

「マコちゃん...おれが見た文章には

弟子について書かれてなかったんだが…

勝手に変えたのか?」

「何言ってたんだ!そ、そんなわけ...!」

「...おれ...契約書とかはちゃんと

残してあるんだが?なんならマコちゃん宛に送ってやろうか?」

「.....」

「はぁ...難癖つけておれに当たりたいってのは分かるが…もう少し上手くやれよ?」

少しの沈黙の後電話が切れる。紅原は小さく

ため息をついて

「...可愛げが無くなったなぁマコちゃん...」

そう小さく呟いた

「まぁ...気にしたら負けだな...おれも自分のやることをしなきゃな...」

紅原は会計を済ませてカフェを出た

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--12月23日 午後12時--

紅原はビル街にいた

「あ〜本当に...寒ぃし早く済ますか...」

紅原はなにやら記号の書かれた地図を取り出す

「...とりあえずここから始めるか」

そう呟くと星印の書かれた場所に歩を進めた

少し歩くと1つの廃ビルが目に入る

廃ビルには廃れた入居者募集中の紙が

風で剥がれ落ちそうになっていた

紅原はその廃ビルの前で立ち止まる

そして赤いチョークを取り出して

目立たない下の方にバツ印を書いた

そして今度は裏手側に回り込み

またバツ印を書く。そしてこう呟いた

妖精達の調べフェアリーズメロディー

紅原が呟くと同時に先程まで無風だった風が

強く吹きすさび始めた。まるで子供達が

和気あいあいと遊び始めるように

「ったく...ここまで下準備したんだから

王海桐にはそれなりに用意してもらうか…」

吐き捨てるかのようにそう呟き

紅原は廃ビルを後にした

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--12月23日 午後19時--

紅原は部屋の隅にあるソファーに

横たわっていた

日が落ち暗くなった室内にはロウソクの火が

弱々しく揺れている

何も考えずにただ呆然と

部屋の天井を見上げていると突然窓を

叩くような強風が吹き荒れる

そしてその強風は窓を通り抜け

紅原の横たわるソファー目掛けて

地面を這いながら近づきソファーに着くと

ソファーの上で踊るように舞い上がり

天井から抜けていった

「...随分と待たせたじゃないか」

風が通り抜けた天井を見上げながら呟く

「てか...あいつらいつもながら

元気過ぎるだろ...もう少し思いやりって

もんを持って欲しいね...」

そう吐き捨てながら紅原はゆっくりと

重い腰をソファーからあげた

「それじゃまぁ...行きますかね」

紅原はロウソクの火を消して

真っ暗になった部屋を後にした

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--12月23日 午後20時--

紅原は昼間に来ていた廃ビルの前に居た

辺りは昼間とは違い暗くどんよりとしていて

一層不気味な雰囲気を漂わせている

そんな廃ビルの前で紅原は座り込んでいた

「罠とかは...無いみたいだな」

そう呟くと紅原は廃ビルの中に入っていく

中に入ると目の前にはエントランスが広がり

最上階まで伸びるエレベーターは

電気が通ってないのか止まっている

ふと紅原が辺りを見ましていると

階段の2階部分に微かな小さな灯りを見つける

「そこに居るのか…予想通りだな」

そう呟くと紅原はその灯りの方に歩き始めた

階段を登り終わると長い廊下が続いていた

紅原はその廊下の端に人影を見つける

そこには男が立っていた

身長は約180cm前後で体は細く

ヒョロガリという言葉が似合う男がいた

顔色は心做しか青白く見えた

「おいっ!お前!」

廊下の端の男は紅原の声に少し驚いた

表情を見せる

「お前だよお前!...ってなんだよハズレか」

紅原は軽く舌打ちをしながらその男に

近づいていく

「...まさか本当にきた」

「なにが本当に来たなんだよ」

「あの方の言った通りだ!

あぁ〜僕はなんて幸運なんだ!」

「おーい聞こえてるか?」

「しかしこんなチャンスをくれるなんて

あの方はとてもお優しい!

あぁ〜ありがとうございます」

「なんだよ...ラリっちまってるのか...」

「あぁ〜失礼失礼...僕としたことが...

つい嬉しくて我を忘れていましたっ!」

男は満面の笑みで紅原に笑いかける

紅原には仮面のような不気味な笑みに見えた

「聞こえてるなら返事くらいしろよな...」

「すいませんねぇ〜僕の悪い癖なのです...

それで...魔女様が僕になにか御用ですか?」

「なんだよ...バレてんのか...

まぁ用っちゃ用だな...お前が劉興安リュウコウアンか?」

「ふふふ...あの方から聞いてますからね...

あぁ...また懐かしい名前ですね〜」

男もとい劉は不気味に笑いながら返事をした

「でだ劉興安...もう1人鮫島康介さめしまこうすけはどうした」

「...彼ならそこに居るじゃないですか〜」

劉が指差した先にそれはいた

先程紅原が登ってきた階段の辺りに

犬のような見た目だが影はなく

犬が発しない低く不気味な呻き声をあげる

黒い獣のような物が紅原を睨みつけていた

「...浸蝕変異エロージョンミューテーションか...」

「ご名答です!流石は魔女様ですね!」

「まぁ有名な禁術だからな...

知らない奴の方が少ねぇだろうな

...んでだお前はなんでそれを使ったんだ?」

「分かりませんか?」

「分からねぇーな」

「そうですか...残念ですよ...」

劉は少し暗い顔をしたが直ぐに仮面のような

笑みを浮かべ直して

「救いですよ...」

「救いねぇ...」

紅原は顔を曇らせ少し黙り込む

廃ビルに静寂が訪れその静寂が廃ビルの

雰囲気を一層不気味にした

そして紅原は口を開く

「悪ぃけど劉興安...おれの知る限り

魔術じゃ人は救えねぇよ...」

「...救えますよ!えぇ!救えますとも!

現に彼は救われた!平凡でつまらない

決められた運命から!日常から!社会から!

救済されたのです!」

「本当にそうか?おれには

鮫島康介の苦しんでる声が聞こえるぜ?」

「...実に残念です。魔女様とあろう方が

そのような戯言を...

あぁ〜残念です残念ですよ」

そう言うと劉興安は服の内側に持っていた

本を取り出し言葉を紡ぎ始めた

「我は自由を忌み嫌う者なり。

我は自由を拒絶するものはなり。

故に自由全てを拒絶するものなりけり。」

その言葉の終わりと共に壁から無数の鎖が

紅原の四肢を縛り付ける

「ふーむ...鎖か...ってことはお前は...」

「はい。そうですよ...僕は同族ですよ...

まぁあの方のおかげでですがね...」

「そっか...これは宣戦布告ってことで

いいんだよな?」

「なにを今更...魔女様がこの廃ビルに

来るのを知っていたのでね...

こちらは殺る気しかないですよ...ふふふ...」

「なるほどな...なら早く殺れよ」

紅原は顔色一つ変えないで言い放つ

「...怖くないのですか?

あなたは何も出来ずに死ぬのですよ?」

「それこそ今更だろ...

死ぬのが怖くて魔女が名乗れるかよ...」

「ふふふ...残念ですね...このような最期は...

もう少しお話ししたかったのですが...

あの方が時間を大切にと言うのでね...

ですけど安心してください魔女様

あなたは天国で誇れますよ

なんせ僕はこれから有名な魔術師に

なるのですから...そう彼岸の魔女紅原律子くれないばらりつこを殺した魔術師としてね!」

劉は片手を上げてこう告げた

「我は告げる裁きの刻来たれり。

我が下僕しもべに裁きの刻を告げる。」

劉が言い終わると鎖で繋がれた紅原に

階段の近くにいた黒い獣が

低く獰猛で不気味な呻き声を上げながら

襲いかかる

そして紅原の体を食い荒らしていく

「ふふふ...ははは...はははっ!

僕はやりましたよ!あぁ〜あぁ〜あぁ!

これで僕も一流の魔術師になれたんだ!

ははは!はははっ!あはははっ!」

無惨に食い荒らされ散り散りになった

紅原だった肉塊を見ながら

劉は高笑いをあげる

「ふぅ...おっと時間だ。そろそろ行かないと

いけませんねぇ...掃除は...

まぁそれがやるでしょう...」

劉は肉塊を踏みつけながら階段の方に

歩き出す

「...短い時間ですがおやすみなさい

彼岸の魔女紅原律子...そしてさようなら...」

そう告げ薄暗い廊下を歩いていく

「あの方には褒めて貰えますかね...

ふふふ...もしかしたらご褒美を

貰えるかもしれませんね...

ふふふ...楽しみですね...

ふふふ...はははっ!あはははっ!」

「...褒めてもらえるんじゃねぇか?

まぁ...無事帰れたらの話しだがな?」

「...は?な、な、」

「お前今なんで?って思ったな?

いやまぁ...律子の名前出てたし

予想通りなんだけどな...」

「ど、どうして...いや確実に...有り得ない...」

「有り得ないねぇ〜まぁお前が

勘違いしたのが悪ぃな」

「...ぼ、僕が勘違い?」

「あ?あぁ〜2つほど勘違いしてるよ

まず紅原律子はおれじゃなくて

妹の方だなおれの名前は

紅原麗子だ...まぁ妹の方が有名だから

仕方ないんだがな...

んでもう一つの勘違いだが

おれは魔女じゃねぇってことだ」

「は?」

「いやまぁ正確には魔女だが純潔の

魔女じゃねぇんだよ」

「なにを言ってるんです...純潔じゃない

魔女なんて存在するはずが...」

「ところが残念なことに

存在しちまったんだよなぁ〜これが」

劉は紅原の言葉に唖然とする

「でだおれも一応は魔術師な訳でな

魔術師が魔術師に宣戦布告する意味は

分かってるな?」

劉は冷や汗をかき始める

「知らないなら教えてやるよ...

魔術師が宣戦布告をする時は殺られるのを

覚悟してますって時だよ」

「んぐっ!」

劉の体に鈍痛が走る。痛みがした方を見ると

そこには手のような物が

無数に足に絡みついていた

「...なんですこれ。なんなんですか!」

「それか?おれのだけど?」

「こ、こんなもの見たことないですよ!」

「そりゃそうだろ...禁術らしいし...」

「き、禁術...そ、そんなもの使えるはずが」

「...なんだよお前何も知らないのか」

紅原は溜め息を付く

「無知なお前の為に説明してやるよ

おれの魔女名は闇夜の魔女だ

だから闇...即ち夜の間おれ

死なねぇんだわ

そして蔑称は同族殺しマジシャンズキラー

「...同族殺し!?」

おれの特徴...ってか

呪いみたいなものだなそれのせいで

そう呼ばれちまってる

昔色々あってな...

無機物だろうが有機物だろうが

おれの周りにある魔力のあるもんの

魔力を全て吸い尽くしてしまうんだよ...

まぁ昔は苦労したが今は調整出来るように

なったんだがね」

「そ、そんな...そんなのって」

「理不尽か?まぁ魔女ってのは

そんな存在もんだろ?」

紅原の言葉を聞き劉の体からは冷や汗が

とめどなく溢れ出す

「んでおれはもう疲れちまったし

終わらせるな?」

紅原がそう言うと

終わらない悪夢アンエンドナイトメア

途端に劉の影から無数の手が劉の四肢を掴み

そして影に引きずりこもうとする

「し、死にたくない!嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

劉の絶叫が廃ビルに虚しく響き渡る

「だから言ったろうが...宣戦布告か?って」

紅原は冷静に冷酷な目線で

自分の影に飲み込まれていく劉を

ただじっと見つめていた

そして劉はただ為す術なく

自分の影に飲み込まれそして消滅した

紅原はその光景を見終わると辺りを見渡す

「...これしかないか」

劉が持っていたのだろうか

黒い鞄らしき物を手に取り

黒い獣に近づいていく

「悪ぃけどそこまで浸蝕されちゃ...

いくら魔女でも元には戻せない...

そしてお前はあと少しで消えちまう」

黒い獣はただじっと紅原を見つめている

それを見て紅原は続けた

「まぁここからはお前の選択だ

甘んじて消えるかそれともおれと来るか

選ぶのはお前だよ。鮫島康介」

黒い獣は紅原の前でお座りの姿勢を取る

「分かった...お前の答えに応えるよ」

紅原は赤いチョークを取り出し

黒い鞄のような物の裏側に逆三日月の模様を描くそしてそれをそのまま黒い獣の前に出す

「少し窮屈かもしれないが我慢しろよ?」

そう言うと紅原はこう告げた

君のための楽園ユートピア

言葉と共に黒い獣は黒い鞄のような物に

吸い込まれるように入り込んだ

「まぁ...こんなもんだろうな...

とりあえずこれは昴にでも持たせるか...」

黒い鞄のような物を手に取り

紅原は階段に向かって歩いていった

階段を下りエントランスに辿り着くと

紅原は急に立ち止まる

「居るのは分かってんだから姿を現せよ!」

紅原はエレベーターの真横辺りに

突然黒い炎を飛ばす

「やめーやほんまにおっかないわ〜」

エレベーターの真横からいきなり男が現れた

黒髪に紅と黒の瞳をした20代の青年だ

「やっぱり...あの方ってのはお前か」

呆れたように紅原は溜め息をついた

「まぁ乾はんにはバレるわな...」

「今は乾じゃねぇんだよ」

「なんやて!それはごめんやで」

悪びれていないのか男は笑顔を見せた

「で何の用だよ...サマーデッシュ」

「そっちもやめーや...今は鳳千夏おおどりちなつって

名前なんやから」

「お前らしからぬ名前だな...

また乗っとたのか?」

「バレとる?」

「バレてるよ...てかその喋り方やめろよ

虫唾が走る」

そう言われるとサマーデッシュの顔から

先程の笑顔が消えた

「別に少しくらい良いじゃんか...

つまんないなぁ相変わらず」

「別に普通だろ」

「まぁ切っても切れない関係だもんね〜」

「腐れ縁って言えよ...」

「嘘はついてないでしょ?」

「まぁ...いいか...んで何の用だ?

おれは疲れてるんだが」

「あっ忘れてた!ちょっとした情報をね!」

「そのためだけに何も知らない奴を...

まぁ今更か...」

「そうだよ今更だよ〜

で情報だけどね」

「なんだ早く言え」

「急かさないでよ!

彼に関する情報だよ!」

「...今更なんなんだ!」

紅原はその言葉を聞いて声を荒らげる

「落ち着きなよ...ね?」

「落ち着いてられるかよ!

20年...20年だぞ?あいつのせいで...」

「知ってるよ...苦しんだのは...

まぁ気になるなら行ってみてよ

その場所は狗沙乱村いしゃらんむら

ここから10kmくらいにある廃村だね」

「...」

紅原は黙り込み俯く

「まぁ行くも行かないも君次第だよ

乾麗子いぬいれいこさん?

じゃ僕はここら辺で帰るよ」

「ま、待てよまだ話しが」

と言いかけてた時にはサマーデッシュは

跡形もなく消えていた

「くそっ...なんなんだよ!」

誰も居ない廃ビルに紅原の声が虚しく

ただ虚しく響き渡った

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--12月24日 午後12時--

紅原は孤独な家の中で忙しなく動いていた

「ふぅ...こんなもんか」

作業が落ち着いたのかソファーに腰掛けて

一息つく

ソファーの前には昨日の黒い鞄らしきものと

赤いチョークで書かれた左右対称の

三日月が薄く書かれた魔法陣があった

「本当に...昔の魔法書は役に立たねぇな

なんだこの文字と言い回し

今の奴らは使わねぇーよ」

悪態を着きつつ紅原はキッチンに向かう

キッチンとは言えどそれは名ばかりで

流し台には乱雑に置かれた鍋やフライパン

コンロの周りにはブラックコーヒーの

空き缶が投げ捨てるように置かれていた

紅原は宝探しをするようにそのゴミの山に

手を突っ込みなにかを探している

「...ようやく見つけた」

紅原は全身黒のナイフを手に取った

紅原はそのナイフを手に先程の魔法陣に

足を伸ばした

そしてその魔法陣の上に立つと

先程の黒いナイフで自分の手首を切る

赤黒い血がポトポトと流れ出した

「まぁこんなもんだろ...」

手に持っていた本を放り投げ

紅原は魔法陣の前に座り込む

「汝を求める我は主人なり

汝に問いかける我は主人なり

汝の主人の問いかけに応えて顕現せよ」

そう唱え終わると黒い鞄がガタガタと

音を立て震え始めた

次第にその音は大きなるそれと同時に

窓を荒く風が揺らす

やがて家全体に風が吹き荒れる

紅原は小さく溜息を漏らすと

パチンと指を鳴らした

すると先程まで音を立てていた黒い鞄は

次第に大人しくなりやがて動かなくなった

そして吹き荒れていた風は止み

薄暗い部屋の中を静寂が包んだ

「もう少ししたらご飯食べれるからな...

それまで大人しくしてろや」

黒い鞄は頷くようにガタンと音を立てた

「良い子だな...あとはこれを昴に届けて...」

そう言いかけ紅原は床に倒れ伏せた

「流石に徹夜で血抜いたのは

ダメだったみたいだな...」

そう呟き紅原はそのまま眠りについた

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紅原がふと目を覚ますとそこは花畑だった

名前も知らない白い花が咲き乱れていた

「麗子...麗子...」

紅原は呼ばれた方に顔を向けた

顔にモザイクのかかっただがどこか懐かしい

雰囲気のある男がそこにはいた

男は優しさのある声色で紅原に語りかけた

「良かった...やっぱり麗子だ...

久しぶりだし色々話したいんだけど

時間がないから一つだけ

麗子...頑張ってね?

僕はいつでも傍にいるからさ...」

紅原がなにかを言いかけようとしたが

そこで視界が暗転した

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--12月24日 午後18時--

紅原は冷たくなった床の上で目を覚ます

目には少し涙を浮かべていた

「あいつ...今更そんなことを...」

そう呟きながら紅原は起き上がる

「...よし!行くか...」

瞼に付いた水滴を指でなぞり落として

紅原は黒い鞄を手に部屋を出た

日が落ち暗くなった部屋は静寂に包まれた

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--12月24日 午後19時--

「ふぅ...ようやく着いたぜ...」

紅原は蓮急百貨店の入り口前に居た

「あいつ...無事だといいんだが...」

そう言いながら紅原は百貨店の中に

入るため自動ドアに近づいた時

一瞬の嫌悪感が紅原を襲ったのと同時に

紅原はその正体に気づいた

「幻覚系...だがこれは...」

暫く紅原は考え込んだ

「いやとりあえず今やることをしなきゃな」

頭を振り考え直してから紅原は

蓮急百貨店の中に入っていった

中に入るとまず3人の女性が見えた

その内2人は心配そうに蹲る少女を宥めている

紅原は辺りを見回し状況を理解する

「...やっぱりな」

そう小さく呟くと蹲る少女に近づいていく

「おいおい昴大丈夫かよ?」

「...」

少女は虚ろな目で何も無い場所を眺めている

「はぁ...仕方ない弟子だな」

「あ、あの...」

心配そうに見ていた2人は訝しげに紅原を見る

「あん?あぁ...悪ぃな

えーとまず自己紹介から...おれの名前は

紅原麗子ってそんな雰囲気じゃねぇよな...」

紅原はバツの悪そうな顔をしたがすぐに

「おいお前らとりあえず詳しい話しは

ここに居る昴から聞いてくれ

でだ...さっきそこから逃げるように

消える人影が見えた

...追いかけた方が良いんじゃないのか?」

先程の2人はハッとして

紅原が指を指した方を見た

どうやら裏口のようだ

「こいつはおれに任せて

早く追いかけてくれ

こいつは後から行かせるからさ」

2人は少し紅原を怪しみながらも

急いで裏口に向かって走っていった

「さぁてとだ...」

紅原は深呼吸をして

聖母の加護マリアブレス

と呟き昴と呼ばれた少女の頭を撫でる

すると昴と呼ばれた少女はハッと我に返った

「あ、あれ...ここは?た、確か」

「よぉ〜昴元気か?」

「せ、センセェ!?」

「なんだよ...元気そうじゃねぇか」

紅原は安心したように一息つくと

地面に文字を書いていく

「でもどうして先生がここに居るんです?」

「あぁん?まぁ〜なんだ魔術師の勘だな」

「相変わらず適当だなぁ...

で何してるんですか」

「修復作業だな」

「修復作業?」

「あぁ〜...そうだ!おまえに

いいもん見せてやるよ」

紅原は足元に魔法陣を描きこう唱えた

幻想さえ喰らうものドリームイーター

そう言葉が紡がれた瞬間

先程まで生と死を繰り返していた人間達が

霧のように消えていく

「どうだ?凄いだろ?」

紅原は少女のような笑みを浮かべる

「は、はぁ...」

「んだよその期待外れみたいな相槌は...」

「いや...まぁ凄いですけど

魔法かなんかを教えて貰えるかと...」

その言葉に紅原は少し考え込む

「とりあえず...お前は目の前の問題を

片付けたらな」

その言葉に少女はハッとする

「あっそう言えば!」

「いやいや...忘れんなよ...」

苦笑いを浮かべ紅原は先程と同じように

裏口に指を指した

「あの二人なら先にそこから出て

追いかけて言ったぞ?

これ持って早く行け」

紅原は少女に黒い鞄を手渡した

「え?あっはい。あのこれは...?」

「あぁ...お守りだ...多分必要に

なるだろうから持っていけ」

「分かりました!じゃ先生も気をつけて」

「はいはい」

少女は息を切らしながら裏口に

向かって消えていく

静寂に包まれた蓮急百貨店の中で

紅原麗子だけがただ佇んでいた

「おーい!居るんだろ?」

唐突に紅原は呼びかける

その呼びかけに応じるように男が顔を出した

なにもない壁から突如として

「久しぶりだな...紅原麗子...」

酷く低くくぐもった声

顔色は白く身長は200m前後の黒髪に

神父のような格好をした男がそこにはいた

「...麻原禅彰まのはらぜんしょう

やっぱりお前か...」

「ふふふ...いかにも我輩だ...」

「今更こんな陰気臭いことするのは

お前ら吸血鬼以外居ないからな」

麻原禅彰まのはらぜんしょう彼は高貴な吸血鬼の生き残り

眠らない騎士達ナイトオブナイツ」に所属する吸血鬼にして

禁術の中の禁術「10の罪」

それを使用する魔術師でもある

「...今更かふふふ...紅原麗子...今だからだよ

今だからこそ我輩はこれを行ったのだ」

「...お前なにをしようとしている?」

災厄の大災害ナブトロヘイズン...それの再来だ...」

「な、なんだと...」

「出来るはずがないとでも?

...我輩に不可能は無い。必ず成し遂げるさ」

紅原はただ静かに麻原を睨みつける

「...乾凪叶いぬいなぎと

「...は?」

突然発せられた名前に紅原は唖然とする

「とある友人からその者のことを聞き

我輩は興味を持ってしまったのだ

仕上がった肉体猟奇的な戦い方

そして...貴様と似て澄んだ美しい瞳...

その全てが我輩を虜にした...」

麻原は光悦な表情かおをする

「...てめぇおれとお前の関係に

あの子を巻き込むつもりか?」

「そのつもりだが?

もしや嫉妬か?ふふふ...貴様もそのような

感情があるのだな」

「ざけんなよ!てめぇの

好き勝手にはさせねぇ!」

そう言い紅原は無数の鎖を麻原目掛けて放つ

無数の鎖は麻原を捉え貫いた

確かに貫いたが貫かれた麻原は笑っていた

「くくく...ふははは!そうで無ければ!

我輩の認めた魔女紅原麗子は

そうで無ければならない!」

麻原は心の底から笑っているようだった

「...ただ残念だもう少し話していたいが

我輩も忙しくてな...紅原麗子...

また近い内に会う日まで...」

「ま、待ちやがれ!」

紅原は掴みかかろうと近づくが

麻原は風のように消えていく

「...あいつ次会ったらぜってぇ殺る!」

紅原は壁を殴りそう叫ぶ

誰も居ない静寂な蓮急百貨店に

紅原の声だけが虚しくこだました

「...行くか」

何度か壁を殴り冷静さを取り戻した

紅原は蓮急百貨店を後にした

--------------------

--12月24日 午後23時--

紅原は烏が鳴く薄気味悪い森の中にいた

「おかしいな...確かこの辺りに...」

紅原は慎重に見回しながら歩いていると

ふと古びた神社を見つけた

鳥居は風化したためか今にも崩れ落ちそうで

祠はなんとか形を保っている

神社と呼ぶにはなにかみすぼらしさを覚える

紅原は小さく溜息を漏らして

「...よーやく見つけた...毎度ながら

ほんと分かりにくいなぁ」

呟くように吐き捨てた

「確かここに...よし!あった!」

紅原は祠の中から小さな箱を取り出す

黒い綺麗な正方形の手のひらサイズの箱だ

紅原はその箱を手に持ち神社の裏手に

草を掻き分けながら進んでいく

「ここら辺で良いな...」

そう言い紅原は神社から少し離れ

拓けた草原らしき場所に出てその場所に

魔法陣を書いた

両端に三日月の形を書き中央には道のように

真っ直ぐな線が書かれている魔法陣だ

その中央部分の丁度真ん中に先程の箱を置き

「よぉし準備完了っと...さてさて...」

紅原は右側の三日月の形の上で坐禅を組むと

両手で何やら印を作った

中指以外は握りしめられていて

中指は綺麗に直線になるように重なっていた

「それじゃ...はじめるか」

降り続く雪は止み静寂に包まれた野原で

風が弱々しくただ吹いていた

--------------------

--12月24日 23時30分--

「...ん?...ここは?」

男は目を覚ます

金髪で細身の20代後半両耳にはピアスが

申し訳程度に顔を覗かせ

はだけたシャツの隙間から

龍の刺青が見えるそんな男だ

「...いってぇ...確か俺は」

「目が覚めたか?」

声のした方を男は見たそこには

遠くだったためか暗闇に

顔が塗りつぶされ良く見えない

白無垢を着た女性らしき人物が立っていた

「だ、誰だ」

「私は蒼狐そうこここの主だ...」

蒼狐と名乗った女性は男に近づく

「ヒェッ...」

近づいて顔が見えたためか男は怯え始めた

白無垢を着た女性の顔は骸骨で

その周辺を青白い炎が覆っていた

その姿に男はただ震えながら女性を見ている

鮫島康介さめじまこうすけ...

今宵は貴様を断罪するために私は居る」

「...断罪?てかなんで俺の名前を...」

「貴様には関係が無い話だ

それでこれから貴様を裁くための刑を

決めるのだが...」

と蒼狐は紙の束を取り出した

「貴様は...なんだそんなに大したことを

してないでは無いか...

これでは罪を決めかねる...」

蒼狐は暫く考え込むように黙る

「...なんだよこいつは...」

鮫島は震える声を抑えるように呟いた

束の間の静寂の後に

「うむうむ...そうかそうか...

なるほど...分かった...」

蒼狐は独り言の後

「鮫島康介...貴様の罪が決まった...

これより執行に入る!」

「...は?ち、ちょっと待...」

蒼狐は鮫島を無視して

右手を高々と挙げて振り下ろす

「判決だ!鮫島康介...貴様の罪は親不孝だ

よって貴様の償いの儀は私の主たる

紅原麗子に委ねる」

「...何を言って」

鮫島が言いかけた時後方から

無数の手が伸び鮫島の四肢を掴み

引っ張り始める

「や、やめやがれ!」

鮫島も抵抗しようと暴れるが

その介虚しく無数の手が伸びる門に

引き摺りこまれて暗闇に消えていく

「まったく...久しぶりだと疲れるものだな...」

蒼狐は溜息混じりに一息ついた

「蒼狐...すまねぇな」

いつの間にか隣には紅原麗子が立っている

「まったくだ...急に呼び出したかと思えば」

「まぁまぁ...そう言うなよ...

おれとお前の仲だろ?」

紅原は悪びれない様子で蒼狐を見る

蒼狐はそんな姿に溜息を漏らした

「まぁ...後はお前に任せぞ?私は暫く眠る」

「はいはい」

紅原は先程鮫島が吸い込まれた門に向かい

歩を進める

蒼狐はそんな紅原を見送るように眺めていた

「んじゃ...おやすみ」

紅原は振り返らずにそう言い門から出ていく

「あぁ...おやすみだ...」

蒼狐は紅原の背中を見ながらそう呟くと

奥の方に下がっていった

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--12月25日 午後0時--

男は目を覚ます

そこは風が弱々しく吹き烏の鳴く

薄気味悪い森の中だった

先程まで悪夢を見ていたためか

少しばかり汗をかいていた

男が怯えながら辺りを見ます

「おっ!起きたか?鮫島康介」

鮫島と呼ばれた男は声のした方を見た

そこには赤髪のショートボブに狐面

白色の着物の上トレンチコートを着た

少女の見た目の人物が立っていた

「お、お前は...」

「あぁ...そうか自己紹介がまだだったな

おれの名前は紅原麗子

まぁしがない探偵だ」

「は、はぁ...」

鮫島は呆然としている

「まぁそうなるよな...

だが安心しろ...なんやかんやあってお前は

生き返った訳だし...ただ体は借り物だがな...」

鮫島はその言葉を聞いて自身の体を見た

痩せほった腕と足そして普段なら履かない

ローファーと学生服らしきものを着ていた

「な、どうなってるんだ」

「まぁそうなるのも想定内だな...

んでだ鮫島康介...お前は訳あって1度死んで

魂だけ蘇った。」

「な、何を言っ...」

ふと鮫島の頭に鈍痛が走り写真のような

風景が頭をよぎる

全身を黒いジャケットに身を包んだ

青白い顔をした男と血溜まりに倒れる

茶色のシャツに金髪の男

青白い顔をした男の手には拳銃が握られ

倒れる金髪の男を見て笑顔を見せている

「あ、あぁ...あいつ...」

鮫島は頭を抑え怒りに震えた

「思い出したか?...まぁ安心しろ...

あいつは死んだ」

鮫島は紅原のその言葉に驚愕した

「あ、有り得ないだろ...だってあいつは...」

「マフィアだろ?知ってるぜ?

おれこう見えてそっちを相手に

仕事してんだから慣れてるぜ?」

紅原は鮫島を真っ直ぐな瞳で見つめる

その瞳を見て鮫島は理解する

自分達とは潜った修羅場が違うのだと

「...で?そんなあんたが俺に何の用だ」

「おっ!話す気になったか?」

紅原は嬉しそうな笑顔を覗かせた

「俺があいつを殺ったあんたに挑んだ所で

勝てねぇのは分かりきってるしな...

だったら話すしかないだろ」

「なんだよ鮫島...お前頭良いな」

「馬鹿にしてんのかよ...」

「まっさかー感心してんだよ」

鮫島は小さく溜息を漏らした

「...んでだここから大事な話しだがよぉ

鮫島...お前に選ばせてやるよ」

「あぁ?」

「黙っておれに付いてくるか

またここで死ぬかだ」

紅原は冷静に冷たく言い放った

「...紅原さんよぉ?あんたは俺を

試してるのか分からないが

こっちはいつ死んでも後悔しないから

マフィアしてるんだよ」

「そっか...」

「だがよぉ...こんな惨めな終わり方は

望んじゃいねぇんだよ!

...だからあんたに利用されてやるよ

「...その選択で後悔はないな?」

「俺だって男なんだ

1度口にしたことは死ぬまで曲げねぇよ!」

紅原は安心したように息を吐き捨てた

「...良かったぜお前が話しわかるやつで」

「どぉも...で俺は何をすれば良いんだ?」

「まぁ...そうだな...」

紅原は鮫島の前に手を出して

神すら縛る鎖グレイプニル

「うぅ!」

鮫島の胸の辺りに痛みが走る

その痛みのした部分を見ると

無数の鎖が鮫島の心臓部分を縛り上げていた

「...何しやがった?」

「喚かないのな?お前やっぱりすげぇわ...」

紅原は驚いた表情を見せた

そんな紅原を鮫島は睨みつける

「今更こんくらい銃で頭撃ち抜かれるより

痛くねぇよ...それよりも!」

「分かった分かった...今説明すっから

静かにしてろ

今お前にしたのは...まぁまじないみたいな

もんだな。お前がおれを裏切らない

そのための契約みたいなもんだ」

「へぇ...そうかい...」

「なんだよそんだけか?もっとこう

反抗するかと思ったんだが」

「したって無駄だろ?なら従うさ...」

「そっか!それは良かったぜ

んでだ。後は名前だな...」

氏忘野しわすの...」

「なんだよ...そのセンスのない名前...」

「うるせえよ...昔の俺の名前なんだから

仕方ねぇだろ」

「なら仕方ねぇか...ならそれで

改めてよろしくな!氏忘野康介!」

「あぁ...よろしく...」

「ならやることも終わったし...帰るか」

紅原は氏忘野に手を差し伸べる

氏忘野は紅原の手を取り起き上がった

他愛のない話しをしながら2人は帰路に着く

弱々しく静かな風と綺麗な満月が

そんな2人を見つめていた

--------------------

--12月25日 午前9時--

ピンク髪にスーツ姿に似合わない

丸眼鏡をした細身の男がカフェにいた

机には男が注文したであろうカフェオレが

湯気を立てている

暫くして2人の男女が入ってくる

「おっ!王海桐ワンハントン!久しぶりだな!」

「まったく...遅いですヨ麗子さん...」

「悪ぃなこっちも取り込んでてよ...」

紅原は席に着きブラックコーヒーを頼む

王は小さく溜息を漏らしていた

「...でそちらは?」

「あぁん?あぁ...」

「...氏忘野康介です。昨日から紅原さんの

助手をしています」

「康介...麗子さん...まさか?」

「あぁ!こいつは元鮫島康介だぜ?」

「ちょっ...お前!」

氏忘野は慌てながら紅原を見る

「ほう...見違えていたから

気づかなかったヨ...失礼したネ氏忘野さん?」

「いえ...」

「で?麗子さん...残りは?」

「あぁ...弟子に持たせたもんから見た

情報だと南雲圭介なぐもけいすけ鷲島歩わしづかあゆむ両名死亡

んでだ鮫島康介さめじまこうすけは...見ての通りで

劉興安りゅうこうあんは...」

「もういい...どうせ君が始末したんだロ?」

「相変わらず察しがいいようで...」

「...とりあえず皆死んだんだネ?

ありがとう...とりあえずこれを」

王は机の上にアタッシュケースを出した

「おぉ!悪ぃな...」

紅原はアタッシュケースを受け取る

「それではまた仕事が出来たら連絡するヨ

麗子さん...康介のこと頼んだヨ?」

「あぁ!任せてくれよ」

王は席を立ちカフェオレを飲み干して席を

後にしようとする

「...あの王さん!」

氏忘野がそんな王を呼び止める

「なんだネ?康介」

「あの...俺は...」

「安心したまえ...嫌になったらいつでも

戻ってきなヨ...君はもう家族ファミリーだろ?」

「...ありがとうございました」

氏忘野の声は少し潤んで聞こえた

「...じゃぁ頑張りなヨ康介」

そう言い残し王は店を後にした

慌ただしくなり出す店内で

紅原はブラックコーヒーを啜り

氏忘野は泣きながらコーヒーを啜っていた

--------------------

--12月25日 午後15時--

紅原はひとつの墓の前で手を合わせていた

墓碑には紅原涼子くれないばらりょうこと刻まれている

「んじゃ...行くからな...」

紅原は赤色のカーネーションを供えて

その場を後にする

ふと何かの近づく気配を感じとり

紅原は後ろを振り向く

「センセェ!」

「...どうしたよ昴...手紙読んだろ?」

「どうした?じゃ無いですよ!

あんな手紙ひとつでこの私が

引下がるわけないでしょ!」

「だがな昴...」

「だがもへったくれもないです!

私の居ないところで

面白いことさせませんよ!」

「...分かってくれ昴。お前を

巻き込みたくないんだよ...」

「ぜったい!嫌だ!何がなんでも

付いていきます!」

紅原は小さく溜息を漏らした

「使いたくないが...仕方ないか...

愚者の鎖フールチェーン

「いっ...」

地面から鎖が生えてくるその鎖は

昴と呼ばれた少女の足に絡みつく

「その鎖はお前が動けが動く程痛みを増す

おれが一定距離離れれば自然と

消えるだから大人しく...」

「うっ...だぁ!」

少女はその言葉を聞いても歩を進めた

「ば、馬鹿かお前!止まれ!」

「い、嫌だ!わ、私は貴女に

な、何が...なんでも...付いていくんです!」

歯を食いしばりながら1歩ずつ紅原に近づく

「やめろ!昴!歩けなくなるぞ!」

「あ、貴女に置いてかれるくらいなら...

こ、こんな足の...い、1個や2個...!」

少女は痛みに悶えながらも歩を進める

「...昴!いい加減に!」

紅原は咄嗟に構えるがその時

ふと紅原の脳裏を何かが過ぎる

幼い頃の自分だそして紅原は気づく

昔の自分によく似ているから自分は彼女を

気に入ったのだと

紅原は構えた手を下ろすと

「...たく仕方がねぇ弟子がきだな...」

そう呟き鎖を解いた

「...へへっありがとう...センセェ...」

少女はばたりとその場に倒れ込む

「お、おい...昴!」

少女は限界を超えた痛みに気を失った

「...たくよぉ無茶しやがって」

紅原は少女を抱き抱え

「...足でまといになんなよ?」

そう呟き帰路に着く

少女は少し笑みを浮かべているようだった

優しい木枯らしがそんな2人を包み込んだ

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魔女と呼ばれた同族殺し 朝兎 @__asato

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