異常事態はっせいす。

第七話


「なんだこりゃ!?」


 SNSアカウントを作成した3日後に、『死んだお母さんがJK(巨乳)に転生して駄々甘やかしで歯磨きしてくれるCD』:サンプル音声をアップロードしよとしてアカウントを覗いたらとんでもないことになっていた。


「フォロワー数10万人!?」


 なんで一体!?


「ま、まあ、とりあえずサンプル音声をつぶやかなきゃ、っと」


「今度出す同人CDびサンプル音声です……っと」


 ピコん。


「え、もう反応が来た……」


 ピコん。


 ピコん。


 ピコん。ピコん。ぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴ……。


「え、えっ……、ええぇっ!?」


 今しがた投稿した内容への、いいねやりつぶやきがものすごい勢いで行われていく。

 それに乗じて、投稿へのコメントがが大量に寄せられてくる。


 さくらちゃんの声かわいいー。


 声素敵です。


 ばぶぅ……。


 さくらちゃんお顔だけじゃなく声も素敵かよ。


「な、なんなんだ、これ。一体どうなってるんだよ」


 ぶぶぅ。


 スマホが鳴る。


「なんだよこんなときに、えっと、かえでからだ」


 ピッ。


「もしもし、かえで。どうしんだ、兄は今ちょっと立て込んでるんだ、用事ならあとd」

「バカ兄貴ー!なにやってんだー!」

「ごめんなさい!」


 いきなりの怒声に驚いて反射的に謝ってしまった。

 いかん。兄の威厳がなくなってしまう。


「んー、ん。こほんっ。かえで、いきなりどうしたんだ。兄がきいてやろう。落ち着きなさい」


「バカ兄貴、ネットは今使えるか。」

「ん、可能だ」


「なら、ヌーグルで#世界で最も美しい美少女で検索しろ」

「いきなりなにお」

「とにかくやれ、今すぐに!」

「わ、わかったよ……」


 ヌーグルで#世界で最も美しい美少女で検索、っと。


「ん、トップ検索画面で、んん、ななんじゃこれりゃー!」


 ヌーグルのトップ検索画面に表示されたのは、『伝説の美少女ついにSNSデビューを果たす!』『世界一の美少女15年ぶりに姿を現すも、容姿当時と変わらず』『究極の美少女:如月さくらちゃん』といった内容だった。それもご丁寧に私のつぶやいたーのアイコン(全身画像)つきでだ。


「か、かえで。これは一体どういうことなんだ」


「バカ兄貴。てめー自分の自撮り画像をネットにあげただろう。それがどれだけ愚かなこととも知らずに」

「な、なにを言ってるんだ。自撮り画像上げたぐらいでこんな騒ぎになるものか。しかも上げたのはつぶやいたーのアイコンだけだぞ!」


「ちっ、これだから引きニートが!」

「うっ、かえで、兄はもう引きこもりではないぞ。ニートなのは認めるが……」


「いいか聞け。バカ兄貴。てめーは十何年もヒキニーやってて知らんだろうがな、さくらは一回大学時代にてめーの美少女っぷりをTVのニュース番組に取られているんだよ。それが、ネットやTVでは、あまりに美少女すぎる美少女として伝説になっているんだよ。テレビ番組で都市伝説、世界一の美少女として特集を組まれるぐらいだ」

「そ、そんなことがあったのか……?かえで、冗談だろう、兄をからかうのはよせ」


「F〇CK!」

「ひぃ!?」

「さくらぁぁぁ!てめーは、いつまでもそんな認識だから、いつまでもバカ兄貴なんだよぉぉ!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 こわいこわいこわいこわい!かえでがブチ切れるときはいつも唐突でこちらの心の準備がないから、反射的に謝りまくってしまう。


 それから5分後。


「………………ふぅ」


 電話越しのかえでは、なんとか落ち着いたようであったが、滔滔と語りだした。


「いいか、さくら。てめーは自分の容姿に関して客観的に見たことがあるか?社会の中で自分がどれほどの価値を持つのか考えて見たことはあるか?いいかよく聞け。てめーは、可愛い。てめーは、美人だ。てめーはエロい。どれぐらいかってわかるか、世界一だ。わかるか、世界一可愛いくて、世界一美人で、世界一エロいんだよ。てめーは、世界一の美少女なんだ。なんをバカなこと言ってるかって?バカはてめーだ。さくら、世界一の美少女のバカ兄貴。これが、社会の客観的な指標に基づいたシビアな評価だ。わかるか」


 また始まった。かえでのぶち切れアンド説教コース。

 若い頃から時たまある、瞬間沸騰芸と謎のさくら世界一可愛いよムーブ。

 普段仲が悪いにもかかわらず、なぜかぶち切れた後に、持ち上げてくる。


「かえで、いつも世界一の美少女だって言ってくれてありがとう。だがな、兄はそこまで可愛くないぞ」


 そして、いつもの返し。


「バカ兄貴……」


 そうしている間にも、わたしのスマホにはつぶやいたーのいいねとりつぶやきとコメントとフォロワー追加の通知が山のように来ていた。


「本当にそうおもうか?この結果を見ても?」


 今まで、かえでのさくら世界一可愛いよムーブは、あまり相手にしていなかったのに。


「ヌーグルの検索結果は見たか?記事を読んでみろ。つぶやいたーのコメントは見たか?フォロワーの数は?お、今百万を超えたな」


 この状況を見て、何も言い返せなくなってしまう。


 く、くやしい。


「いいか、よく聞け。もう一度言う。さくら、世界一の美少女だよ。私のかわいい兄貴♡」


「うぐぅ!」


「バカ兄貴。これで分かっただろう。てめーの自撮り写真をネットにアップロードした愚かさが。どんなに小さくてもてめーが写真を挙げた瞬間、誰かの目に触れた瞬間、情報は拡散していく」


「か、かえで。兄はどうすればいいんだ。助けてくれ!」


「SNSのアカウントを消せ」

「それはできない。兄はオタク彼女を作る為にオタ活をするんだ。これから華々しく同人デビューをして……」


「それでできるのは、彼女ではなく彼氏だと思うがな。なら、知らん。勝手にしろ」


 ガチャ。


 ツー、ツー、ツー。


「…………」


 な、


「なんなんだったんだ、一体。妹よ」


 いつものごとく、嵐の様だった。


 そして、


 ぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴ。


 どーしよ、これ。


 いつまでも鳴りやまないスマホの通知をオフにするために、とりあえず通知オフの仕方をヌグることにしたのだった。

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