第3話 オレはドジョウすくいを踊った。
下僕だって? それに、ここは、どうもオレのいた世界とは違うらしい。明らかに異世界だ。すると、オレは異世界で下僕になったのか?
次から次へと展開する事態にオレの頭がついていかなかった。オレはアマイアに間の抜けた質問をした。
「下僕って何をするの?」
アマイアはあきれ顔でオレをのぞき込んだ。
「あなた、男の子なのに下僕が何をするのかも知らないの。下僕はね、ご主人様の女の子の命令に何でも従うのよ。あなたのご主人様は、この私。だから、これから、あなたは、何でも私の命令に従うのよ。いいわね。私に逆らったら、さっきの保険庁のヤクとニンにあなたを引き渡して、殺処分にしてもらいますからね。それとも、あなた、殺処分にしてほしいの?」
殺処分という言葉にオレは震えあがった。オレはアマイアに懇願した。
「殺処分はいやです。なんでもしますから、下僕にしてください」
「そう、分かったらいいわ。ところで、あなた、名前は何だっけ? さっき、聞いたけど忘れちゃった。もう一度言って」
オレは何と答えていいのか分からなかった。やむなくもう一度本名を言った。
「錦戸浩太郎」
「ニシキド コウタロウ? 長いわね。じゃあ、普段はニシキド、急ぐときはニコって呼ぶわ」
「二コ?」
それはオレが最も聞きたくない言葉だった。オレは何故か「ニコ」と人に言われると踊りだしてしまうのだ。生まれたときからそうだった。踊りはそのときに印象に残っているものが出てくる。どんな踊りを踊るか、オレにも分からない。
そのとき、あの赤い着物の女がオレたちの前に現れた。アマイアは赤い着物の女にはまったく気がつかない。どうもアマイアには赤い着物の女が見えないようだ。つまり、何故かオレだけが赤い着物の女が見えるという訳だ。
赤い着物の女の手には何故かCDプレーヤーがあった。俺たちの眼の前で、赤い着物の女がプレーヤーのスイッチを押した。異世界の女戦士アマイアとオレのまわりに音楽が流れた。音楽はなんと日本の民謡だった。異世界の女戦士と日本の民謡、何という組み合わせだ!
♫ たかーいい やまーから
たにそこ みーーれーば
おとめすがたーのどじょうすくい
おやじどこへ行く 腰に籠下げて
前の小川へどじょう取りに
わしが生まれは浜佐陀生まれ
朝まとうからどじょやどじょ
わしの生まれは安来の生まれ
朝ま早ようからどじょうすくい
唄に 千両の値ぶみがあれば
どじょうは万両の味がある ♫
こ、これはドジョウすくいの唄だ。
オレの身体が勝手に動いた。
異世界の女戦士アマイアの前で、オレの身体はオレの意志とは別に民謡に合わせてドジョウすくいを踊り始めた。
オレは腰をかがめた。左手がザルを持っている形になった。右手を地面につけてドジョウをさがす。見つけたドジョウを右手ですくって左手のザルに入れる。中腰になった腰を前後にヒクヒクと動かす。股間を突き出した卑猥な姿勢だ。腰のヒクヒクに合わせて勝手にオレの口から声が出た。
「あっそれ、ドジョウじゃ、ドジョウじゃ」
中腰のままで一歩前に出る。
アマイアがあっけに取られてオレを見つめている。
オレのどじょうすくいは続く。
右手を地面につけてドジョウをさがす。見つけたドジョウを右手ですくって左手のザルに入れる。中腰になった腰を前後にヒクヒクと動かす。股間を突き出した卑猥な姿勢だ。腰のヒクヒクに合わせて勝手にオレの口から声が出た。
「あっそれ、ドジョウじゃ、ドジョウじゃ」
中腰のままで一歩前に出る。
オレの頭がアマイアのスカートにぶつかった。
オレは右手を地面につけてドジョウをさがした。オレの右手がアマイアのスカートの下に差し込まれた。
見つけたドジョウを右手ですくって左手のザルに入れ・・・ようとして、オレの右手がはねあがった。右手がアマイアのスカートのすそを思い切りめくり上げた。白いパンツが見えた。アマイアが声にならない悲鳴を上げた。両手でスカートのすそを押さえる。
オレは中腰になった腰を前後にヒクヒクと動かした。股間を突き出した卑猥な姿勢だ。腰のヒクヒクに合わせて勝手にオレの口から声が出た。
「あっそれ、ドジョウじゃ、ドジョウじゃ」
アマイアが眼を見開いた。アマイアの声がした。声が裏返っていた。
「ニシキド、何をするのよ。この変態」
アマイアの手がオレに向かって飛んできた。オレの頬がバチーンと大きな音を立てた。オレはひっくりかえってしまった。
つづく
女戦士と「捨て男」のオレ 永嶋良一 @azuki-takuan
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