第22話

胸騒ぎ



ホームルームは淡々と進められていたが、俺の心の中は不思議な胸騒ぎがして先生が言っていることが右から左に流れていく、そして、あっという間に終わって、先生が廊下で生徒たち整列させようと指示する、俺は列に並びながら考えごとをしていると、前にいる舞が笑みを浮かべて話しかけてきた。


「あれ?じゅっくん、何でそんな浮かない顔してるの?」

舞は首を傾げて、不思議そうに俺の表情を窺っていたが、俺もちっとも胸騒ぎの原因が何なのかが検討もつかず余計に不安になる…


「宇土が戻って来ないことは嬉しいんだけど、なんか引っかかるんだよな…」

宇土は何故戻ってこないのだろうか、まるで目隠しをしながら前を歩いているような不安がある。俺は、もしかしたら大きな勘違いをしているのではないかと思う気さえする。宇土は加藤みたいにアホではないから短期間で仕返ししないだろうと思うが、ここまで時間をかけられると、胸がざわつく。


「考えすぎなんじゃない?」


「そうかも、舞ありがと!」

俺は、舞をこれ以上に心配させないようにできる限りの笑顔で答えたが、心の靄は晴れそうにない。


「そこ、整列中しゃべるんじゃない!」

郷田の怒声が廊下に響く、その声に驚いて舞が前を向き直した。列は始業式が行われる体育館へと向かい始めた。


体育館へと向かう間も、自分の考えすぎではないのかという思いと、用心したことに越したことはないという思いが論争して、頭の中がうるさい…


体育館につくと先に着いていた生徒たちの声や先生たちの怒声などで騒がしく、頭の中での論争が聞こえなくなってきた。だが、全校生徒が集まる頃にはだんだんと静かになっていき、また論争が聞こえ始める。

もし宇土が休んでいる間に仕返しのために何かを企んでいたら?いやいや、そこまで周到に準備しないだろう、自分の考えすぎだろう。でも、もしかしたら…などの考えが頭の中で巡る。


校長先生の長い話が大半を占める始業式が、今日は速く終わった気がする。


教室に戻ると、帰りのホームルームが始まり、先生が明日の話や教科書などの話をして生徒たちが次々と教室から出ていく、俺は、ずっと考えていたが埒が明かないので、考えるのをやめた。そして、舞と一緒に下校した。


家に着き、バイトに向かう頃にはすっかり胸騒ぎのことは忘れ去っていた。


今日は舞が来る前に起きれたので、支度を済ませて、軽く筋トレをしながら待っていた。

学校があるときはトレーニングは朝できないので夜にいつも行っていたが、案外朝早く起きてやるのも悪くないと思った。


昨日と同じようにインターホンが鳴り、昨日と同じように登校して、昨日と同じように教室に着いた。幸せってこうゆうことなのだろうと、ふと感じる。


この幸せを壊さないように、ずっと続くように密かに神様にお願いした。


だが、今の幸せはこの時から密かに壊されていることに俺は、まだ気づいていない。もう少しした未来の話だが、七尾奏音と舞が出会い仲良くなるのを防げれば、宇土達に舞が逆らうのをやめていたら、あんなことにならずに済んだのではないかと後悔している。

こんなにも不幸になるのなら最初から不幸のままでいた方が幸せだったのではないかと今更ながら思う。















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