第12話
夏祭り
十思は、トレーニングを始めてから二ヶ月が経ち、身体も大きくなり、柔道もそれなりにできるぐらいまでには成長していた。
最近は、コンビニのアルバイトも始めた。そのバイト代と佐々木家族の協力もあり何とか、祖父母たちの家から出て一人暮らしを始めることができた。
一人暮らしをしているが、毎日のように佐々木家で夜食を食べているので、ほとんど、風呂と寝に帰っているだけの状態になっていた。だから、必要最低限の自炊道具と敷布団、洋服タンスぐらいしかまだ、無い。
最近は、いつまでも佐々木家族にお世話になっているのもどうかと思い、自炊を始めようと舞に相談したら、もうすぐ夏休みということで、泊まり込みで教えてくれることになった。
❁
舞と十思は、終業式終わり一緒に帰宅していた。校内の桜はすっかり散ってしまった。その代わり、初夏を教える、みずみずしい若葉が生い茂っていた。
「じゅっくん、明日から夏休みだね!」
「そうだね!めっちゃ楽しみだわ!」
「舞は夏休み家族とどっか行くの?」
「なんか、今回は、行かないみたい」
舞は少しガッカリしていた。
「そうなんだ~」
「あ、そういえばさ、いつ料理教えてくれる?」
「あ~まだいつ行くか決めてなかったね」
舞は今思い出したようだ。
「じゅっくんって確か、午前中はほとんどバイト入れてたよね?」
「だったら、私まだシフト出してないから、私も午前中に入れて、午後からにしようか!」
舞がニコッと笑った。
「でも、いつの午後?」
話がかみ合ってなかったので、聞き返した。
「毎日?かな?」
首を傾げながら言った。
「え?毎日?泊まり込みで?」
「だって家帰るのめんどくさいし、お母さんも、お父さんも、じゅっくんならいいよって言ってたし」
「じゅっくんだって、何もしないでしょ?」
本当に家に帰ることが面倒そうだった。
「まぁ、何もしないけど、布団とかは?」
「それは、じゅっくんが床で寝るから大丈夫でしょ?」
冗談とも本気ともつかない言い方をした。
「え~」
「それは、冗談だとして、布団はもう一つあった方が色々と便利だから、明日買いに行こうよ!あとほかの家具とかもね」
舞はウィンクした。
十思は胸を下ろした。舞なら本気でやるかもしれないからと思ったからである。
「でも、布団とか買うなら、車で行った方がいいよね?」
舞は視線を宙に這わせて考えた。
「そうだね、そのほうが楽だよね」
「分かった、じゃあ、お願いしとくね」
「ありがとう!」
「あとさ、明後日にさ、夏祭りあるの知ってる?」
「行ったことないけど、知ってるよ」
「やっぱり、行ったことなかったんだ、じゃあ、一緒に行こうよ!」
「なんかさ、皐月と菜摘がさ、今年は家族旅行に行くからいけないって言ってて」
舞はどこか寂しそうに言った。
十思は少しガッカリした、舞が誘ってくれたことには変わりないのだが、友達の代わりに誘ってくれたということに、期待してしまった自分が恥ずかしくなった。
「うん!行こう!」
いつもよりほんの少し元気にそう言った。
それから、十思はバイト先に向かい、舞は自宅に帰って行った。
❁
舞の母親の佐々木
「私は、一階で食料品見てるから行くから、舞と佐藤君は先に見てて。」
奈美がカゴを持ちながら言った。
舞と十思は返事をした後に、二階に向かった。二階には、多種多様な寝具用品と机などの家具が揃っていた。そのため、奈美が終わるまでには決まらなかった。そのため、帰るころには、暗くなり始めていた。
奈美は十思たちを車で送っていた。奈美が思い出したように、舞に聞いた。
「ねぇ、舞って明日の夏祭り十思君と行くんだよね?」
ルームミラーで舞を見ながら言った。
「うん」
「じゃあ、せっかく佐藤君と行くんだから、浴衣着て行けば?」
奈美はニヤッと笑った。
舞は顔を赤面させて頷いた。
「佐藤君、そういうことだから明日、現地集合でいい?」
「はい、わかりました。」
そうこうするうちに、十思の家に着いた。
「佐藤君、舞をよろしくね!」
奈美はそう言って、ウィンクした。
「任せといてください!」
十思は胸を張った。
二人は、奈美に手を振って別れると104と書かれた部屋に入った。部屋は相変わらず、何もなかったが、一緒に帰ってくる人がいるというだけで、心があったかくなった気がした。
舞は、荷物を置くとキッチンに行き、包丁とまな板をだし、母親から貰った食材で、手際よく料理を作り始めた。
「明日速いし、今日は私が作っちゃうね!」
舞は、リズムよく食材を切っていた。そして、あっという間にハンバーグができた。
十思はレインボーで買ってきた、ミニテーブルを広げ、炊飯器から白米をよそって待っていた。
テーブルに置かれた、真っ白な皿に盛りつけられた、二つのハンバーグからは食欲を誘う匂いと肉汁があふれ出している。
「どう?美味しい?」
舞は不安そうな顔を浮かべた。
「美味しいよ!」
十思はハンバーグを口いっぱいに頬張った。
それから、二人は他愛もない話をして就寝した。
❁
夕暮れ時に十思は舞と待ち合わせすることになっている
「ごめんね、遅くなっちゃって」
舞は申し訳なさそうに言ったが、十思は固まってしまって動かないでいた。
「大丈夫?」
「あ、うん…」
いつも化粧などしなくても十分に可愛いと思っていた舞が、化粧をして浴衣を着てきたことで更に美人になり、どうしたらいいのかわからなくなっていた。
そんな十思をみて、舞は不思議そうな顔をしていた。
「ねぇ、じゅっくんは何が食べたい?」
「俺は祭り自体始めてきたし、特に何を食べたいとかわからないから、舞が食べたいものをとりあえずたべたいかな」
「OK!」
舞は親指を立てて返事をした後に、十思の手を握り、歩み始めた。
「こんなに人が多いし、十思は始めてきたんだから迷子になるかもしれないじゃん、だから、手繋いで行こう!」
あたかもそれが、自然なことであるかのような感じの言い方だった。
「あ、え?うん、」
柔らかくて、暖かい感触が掌を包み込んで、心臓の鼓動が一気に飛び跳ねた。
舞は手を繋いでいることなんて微塵も意識してない様子で、左右にある屋台を見渡していた。そんな、様子を隣で見て十思は、意識している自分が悲しくなった。きっと舞は自分のことを異性として、見ていないのだろう。俺のこの気持ちは、どうしたら伝わるのだろうか。俺の胸の鼓動はどうしたら鳴りやむのだろうか。
十思はがそんなことを考えていると、舞は一つの屋台を指差した。
「ねぇ、あそこの綿菓子食べようよ!」
「あ、うん」
急に話しかけられたので、素っ気ない返事をしてしまった。
「綿菓子二つください」
「はいよ、すぐ作るから待っててね。」
そういうと、店主は綿あめ機に長い木の棒をグルグルとまわして、桜色の糸を巻き付けて大きくなっていき、とても甘く優しい香りが漂った。あっという間に二つの綿菓子ができると舞はそれを、十思に渡し、もう一つは自分の口の中に入れた。十思はそんな舞を見て、同じように食べてみたら、不思議だった、確かに口の中に入れたはずなのに食感はなく、ただひたすらに甘かった。これが溶けるということなんだろと、人生で初めて実感した。
俺の恋心も綿菓子のように溶けて無くなれば、どれだけ、楽になるのだろうか…甘い記憶だけが心の中に広がれば、いつまでも幸せでいられるだろうな…
ふと、そんなことが心の中によぎった。
舞を見ると既に綿菓子がなくなっていた。
「あ、そうだ、私ね、花火も見れるし、人もいない穴場スポット知ってるから少し買い込んで、そこで、ゆっくり食べよ」
舞は、そういうと、近くの屋台の食べ物を次々と買い込んで、十思を引っ張って神社の裏にある広い森の方へ向かっていた。暫く歩くと開けた広場にでた。そこには、小さな丘があり、丘の上には丸太の椅子が置いてあった。遠くからは祭りの光と音がほのかに聞こえるぐらいで、静かだった。
十思と舞は丸太に座ると、屋台で大量に買った。焼き鳥や焼きそばなどを食べ始めた。どれもいつも食べているよりも美味しく感じた。
十思は幸せを感じていた。これからこんな幸せが永遠に続けばいいなと思いながら、夏の風にあたっていた。
「ちょっと花火始まる前にお手洗い行ってくるね!食べ過ぎちゃった」
舞は笑いながらそう言って、林の方へ向かって行った。
❁
舞は、お手洗いを済まして戻ろうと森の中を歩いていると、男三人組がそんな舞を囲んだ。
「佐々木、久しぶりだな!」
声がした方の顔を見ると、十思を宇土と一緒にいじめていた加藤だった。
「やっぱり、怪我したってことは噓なんだね」
舞は、ニヤッと笑っている加藤の顔を鋭く睨んだ。
「当たり前だろ、宇土の親父がいじめ政策の間は休学しろってうるせえから、休んでただけ」
「休んでる間、次、会ったら復讐しようって考えてたんだよ、そうしたら偶然にもね」
徐々に男たちは舞に詰め寄ってくる。舞は、急いで携帯を取り出しそうとするが、一人の男がそれを取り上げ、携帯をバキバキに折った。
「あらら、これで、助け呼べなくなっちゃったね」
加藤は気持ち悪く笑った。
舞は、全身に鳥肌がたった。声を出そうにも、出なかった。
加藤が言った。
「その女、後で好きなようにしていいから、ちょっと抑えてて」
二人の男はニヤニヤとして、逃げられないように、舞の腕を左右から抱えこむように強く持った。加藤は拳を強く握り、勢い良く舞の腹に打ち込んだ。舞は、顔を歪めながら、加藤を睨んだ。
「こんなことして困るのは、あなたたちなのよ」
「うるせぇよ!その顔無茶苦茶にしてやるよ」
そういうと、顔面を強く殴りつけた。舞の顔はみるみるうちに赤紫色に腫れていき、無残な顔へ変形していく。
口からは血がでてる。
そして、両脇の男たちはどんどん発情していて、ズボンがはちきれるのではないかと思うほどに、盛り上がっていた。
「加藤、俺もう我慢できねえよ、早くヤらしてくれよ」
男のズボンには、薄くべっとりした液が染みついていた。生臭いにおいもする。
「そうだな、俺ももっと歪む顔が見たいしな、そろそろ遊んであげるか」
❁
その頃、十思は舞を探しにお手洗いに向かっていた。だが、お手洗いにもいなかった。流石に1時間以上も個室にこもっていることはないとだろうし、もしそうだとしても、女子トイレの電気がついてないのはおかしいし、他のところに行ってるはずもない、だってここだけにしかないはずだから、そんなことを考えていると、更に不安になってきていた。ふと下を向くと、入学式の時に舞に貰った。ハンカチが落ちていた、悪寒が全身に走った。幸いなことに、まだ、土汚れがついていなかったので、そんなに時間が経っていないことが分かった。
十思はそのハンカチを握りしめ走って、また、広場の方に向かって森の中へ戻った。広場の方に戻っても舞は、戻ってきていなかった。もしなにか、あるとしたら、森の中だと思った十思は、また森の中に向かった。
「まい!どこにいるんだよ!」
十思は、思いっきり叫んだ、でも、森の中はセミの鳴き声しか聞こえなかった。叫んでも、叫んでも、聞こえるのは、セミの鳴き声だけ、十思は全身汗だくになりながら、森の中を駆け回った。すると月明かりが森に差して三人の人影が見えた。走って近くと三人の間にある木の根元に半裸の女性が横たわっていた。
嫌な予感がした、走ることができなくなった、まるで、
男の一人は加藤で携帯を横にして動画を取っているようだった。もう二人は女性の口の中に竿を入れたり、胸をもんだりしていた。
十思は横たわっている女性の顔が見えるところまで、近づいた。
男の竿を引き抜いた時に顔が見えた……
案の定その女性は舞だった。顔中紫色に腫れているし、精液まみれになっていた。
十思は神社全域に広がるような、悲痛な叫び声を上げた。
もう、何が何だかよくわからなくなってしまっているが、わかるのは、殺意、怒り、絶望だった。そんな感情がせわしなく流れていき、十思の心の中を無茶苦茶にかき乱した。
三人の男たちは流石に気づき、後ろを振り向いてこちらを向いた。
加藤は動画を取るのをやめて、ニヤニヤしながらこちらを向いた。
十思は身体全身から溢れんばかりに出る殺気を纏って、加藤の顔面に憎しみの全てを込めて殴りつけた、二人の男はそんな十思をみてやばいと思ったのか走って逃げって行った。が十思は逃がさなかった。加藤が倒れている隙に、二人の前に回り込み、一人の胸ぐらをつかみ、背負い、勢い良く地面に叩き付け、その間に、もう一人の
加藤の方に戻ると幸いなことにまだ、伸びていて起きていなかった。加藤から携帯を取り上げて粉々にした後にとんがっているところだけを口の中に入れて無理やり飲み込めさせた。加藤の口の中が切れて血だらけになっていた。
舞に自分が着ている服を着させて、十思は代わりに加藤たちから衣服を奪って着た。それから、十思は携帯を持っていないので近くの公衆電話まで行って救急車を呼んだ。
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