第13話

恐怖


病室で無残な顔で横たわっている舞の横に座って、十思は血がでるほどに下唇を噛んだ。少し立つと舞の家族が病室の扉を開けた。十思は、舞の両親に向かって頭を床に擦り付け土下座をして、謝った。


「すみません…俺が居ながら大切な娘さんを守れなくて……」

「すみません……すみません……」

十思は、歯が割れるほど強く嚙みしめながら、ひたすらに謝った。


二人は舞の顔を見た、そして、十思に向かって言った。

「佐藤君、顔を上げてくれ……悪いのは、佐藤君、じゃない……」

貴史はできる限り優しい声を出していたが、その声には、十思と同じように殺意、怒り、憎しみ、悲しみなどの複雑に感情が絡み合っていた。


十思は、顔を上げると貴史も奈美も鬼の夜叉やしゃ見たいな顔をしていた。二人は舞にかけられている、布団に顔を沈めて泣き叫びんだ。


舞の両親の泣き叫んだ声は槍に形を変えて、十思の胸をえぐった。


医師の話しだと、幸いのことに1ヶ月ぐらいで顔の傷などは治るという話だが、精神的な傷は治るかどうかは本人次第だと言うことだ。


三日間、舞は眠り続けた。顔は、まだ、腫れていたが、少し落ち着いてきた気がした。十思は舞の手を強く握りしめて、ずっと謝り続けていた。


舞の手が少し動いた気がした。


「今、指が動いた気が…」

貴史と奈美は静かに手を握った。指が微かに動いき、舞の腫れて塞がっているまぶたも動いた。


「…ここ……は」

思ったように声が出せないでいるようで、言葉を詰まらせながら、呟いた。


貴史と奈美は顔を見合わせて、説明するべきかどうかを

目でやり取りしていた。それから、二人は言葉を選びながらどうして舞がここにいるのか、何があったのかを話した。


舞は何も言わずに、静かに聞いていた、以前の元気で明るい舞は死んでしまったかのようだった……


二人の顔は苦虫を噛み潰したような表情だった…それを見ている俺も同じような気持ちだった。


具体的に言うなら、寄生虫が身体の中を動きまくっているような不快感だった。流石に俺はそんな不快感に耐えられなくなって、一言言って病室を出た。


病室の中庭にあるベンチに座って、目を瞑り、何度も何度も加藤たちを殺しまくった…それでも、まだ不快感は治まらなかった…


自分が許せなかった…なぜもっと速く駆けつけられなかったのか、1人で行かせてしまったのか…今となっては、もうどうすることもできない…


十思がそんなことを考えていると、貴史がやってきて、隣に座った。


「佐藤君…僕も君と同じ気持ちだよ…」

「舞をあんな目に合わせたやつが憎い、助けられなかった自分が憎い」

声は冷静で落ち着いていたが、鬼のような表情を浮かべ、強く拳を握っていた。


「なんのために警察官をやっているんだろうね…でも幸いのことに、舞を酷い目に合わせた奴らは今、監獄の中だ。まだ捕まっていなかったら、きっと殺しに行くところだったよ…」

天使みたいな優しい声で、悪魔的な顔と発言をした貴史さんを見た時は、俺が抱いていた、殺意や怒りを一瞬で凍らせ、恐怖に変えた…















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