第9話

宇土は家に帰るまで、ずっと七尾が言った。返してないものが頭から離れないでいた。


七尾から連絡があった。

「明日空いてる?」


宇土は無視しようとしたが、七尾の言葉が引っかかって、返信した。


「それよりも返してないもんってなんだよ!早く返せよ!」


「明日来てくれたら、返すかも!」


「かもってなんだよ!返せ!」


「来てくれなかったらずっと返さないけどそれでもいいの?」


「はぁ?意味わかんねぇ!」


「とりあえず、来て!場所は新原にいばら駅に朝の11時ね!」


宇土は返信をしないで、ポケットに携帯をしまった。


❁.

翌朝、宇土は新原駅に着くと、先に着いていた、七尾が嬉しそうにこちらに向かってきた。


「来てくれたんだ!」


「返してないものってなんだよ、財布も携帯もあったぞ!」


「とりあえず、あそこのカフェ入ろ!」

七尾は指を指した。


「おい!俺の話を聞けよ!」


「それはカフェでゆっくり話すから!」

「とりあえず入ろ!」

七尾は宇土の腕を引っ張って店内に入った。


「なぁ!速く返せよ!」


「わかった、返すよ!」

「最後まで付き合ってくれたらね!」

七尾はニコッとして意地悪な顔をした。


宇土はそんな彼女の事が嫌いじゃなくなってきた。


「はぁ?意味わかんねぇ」

「なんで、俺が付き合わなきゃ行けないんだよ」


「いいんじゃん、こんな可愛い子とデートできるんだよ!」


「お前が可愛い?嘘だろ?」

内心では可愛いと思っているし、事実、そこら辺のモデル並にスタイルが良かった。


「あ~酷い!私、結構可愛いって言われるのにな~」

七尾は頬をふくらませた。


「目が腐ってんだろ」


「みんなの目が腐ってるんじゃあなくて、正真君の方がおかしいんだよ」


「俺がおかしい分けないだろ」


「いや、おかしいね!」


「おかしくない!」


「じゃあ、おかしくないなら、なんで帰らないの?」

七尾は冷静に言った。


「それは、まだ返して貰えてないからだよ」


「それは違うよ、だって、携帯も財布もあるんだったら普通はここに来ないでしょ?」


「…」

宇土は黙った。


「私、本当は何にもとってないの…」

七尾は下を向いて言った。宇土が帰ってしまうと思ったからである。だが、宇土は帰らなかった。


「まだ、返されてねぇよ…」


「え?」

七尾は目を丸くした。


「お礼したいんだろ?」

「そういったよな?俺、まだお礼されてないんだけど」


「あ、うん」

まだ何を言われているのか理解出来ていなかった。



七尾はしばらく空いた口が閉じなかったが、少したってから、みるみると、顔の表情が笑顔になった。


「うん!するする!今からお礼させてもらうから!」


「あっそ」

宇土はなるべく冷たく言った。


「そういえばさ、正真君はさ、休日何してるの?」


「俺?ってかなんで、急に?」


「正真君の事を知らないと、ちゃんとお礼出来ないと思ったから!」

七尾はニコッと笑った。


「休日は、ゲーセン行ってる」


「へぇ!ゲーセンで何やってるの?」

七尾は興味津々で聞いている。


「シューティングゲーム、ゾンビとか倒すやつ」


「何それ…怖いんですけど…」

七尾は顔をしかめた!


「他には?何やってるの?」


「色々」


「へぇそうなんだ!じゃあ一人でプリクラとか撮ってるの?」

七尾はニヤニヤしていた。


「撮らねぇよ!」

顔を真っ赤して言った。


「だって色々なんでしょ?ちゃんと言ってくれないと分からないよ」


「あ~面倒臭いな!UFOキャッチャーとかメダルゲームだよ!」


「へぇ!私、UFOキャッチャー好きなんだ!」

「じゃあ、今からゲーセン行こうよ!」

「そこで欲しいものとって上げるよ!」


「いらねぇよ、自分で取れるし」

迷惑そうな顔していた。


「じゃあ勝負しようよ!5000円でどっちが多く取れるか」

「負けたら勝った人のお願いを聞くってどう?」


「それはちょっと面白いかも…」

小声でそう呟いた。七尾には聞かれていないようだった。


七尾達はゲーセンに移動した。

















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