第6話
蜘蛛の糸
今日も十思は1番乗りで、学校について昨日と全く同じルーティンをしていた。今日も水道水を飲み終わり、教室に戻ったら、舞が昨日と同じように携帯を弄っていた。
「あ、じゅっくんおはよう!」
昨日は眠れなかったのだろうか、目元には薄っすらと隈ができている。
「おはよう」
十思は舞の心配をしながら、自分の席に向かい、座った。
舞は後ろに振り返り、不安そうな顔をして尋ねる。
「ねぇ~じゅっくんさ、昨日の見た?」
昨日のとはなんだろうか?検討もつかない。
「ん?なんのこと?」
舞は目を大きく開いて驚いた顔を近づけて大きな声で言った。
「記者会見だよ!まさか見てないの?あんなにニュースになってたのに」
十思は舞の声が急に大きくなってびっくりして後ろに退いた。
「ご、ごめん、うちテレビも無いし、携帯も持たせて貰えないから…知らなかった…」
「え?本当に?高校生なのに?」
「うん…」
その後、携帯もテレビも無い理由となんで宇土たちに虐められるのかを舞に話した。舞は複雑な家庭事情に、表情を深刻にさせて、終始真剣に聞いていたが、話終わると、下を俯いて黙っていた。
そんな舞を見ていられなくて十思は謝った。
「ごめん…」
舞は俯かせた顔を上げて、十思の方を見て言った。
「なんで、じゅっくんが謝るの?」
「ごめん…」
二人の間にはまた、息をするのも重苦しい空気が流れた。そんな沈黙は生徒たちが教室に入って来るまで続いた。
教室に入る生徒たちはやたらと舞のことを見て、ヒソヒソと話したりしていたが、その声も人が集まるとどんどん大きくなった。
それで、十思は何となく状況が把握した。
朝の予鈴が学校中に鳴り響いて、廊下ではバタバタと足音を立てながら走っている生徒たちがいた。
男が出席簿を脇に抱えて、教室室の前にある引き戸を音を立てながら開けて、教壇に立った。その男は四組の担任になった
「これから、朝のホームルームをする前にみんなに話さなければいけない事がある」
そういうと深刻な顔を生徒たちに向けた。
「宇土と加藤だが、昨日交通事故に遭った」
クラスはざわついたが、郷田は続けて話した。
「幸い、命に別状はないが、半年間の間は学校に来れないらしい」
十思は驚きを隠せなかったが、天にも昇る嬉しさだった。クラスのみんなも同じ気持ちだろう。
❁.
朝のホームルームが終わった後に、舞は明るい顔をして、こちらに顔を向けた。
「じゅっくん、よかったね!本当に!」
「うん!」
顔中、赤紫色に腫れさせていたが、十思は人生で初めて満面の笑みで笑っていた。
まるで、厚い雲に覆われ、
舞はそんな十思の満面の笑みを見て、鼓動が高鳴るのを感じた。
「じゅっくんってそんな顔で笑うんだね!」
舞にそう言われて、十思は手を頬に当て口角が上がっているのを確かめた。
「……あ、ほんとだ!自分でも初めて気づいた!」
「俺、今、笑ってるんだ!」
「こんなに清々しいのは初めてだよ!」
十思は人生初めての経験で心を踊らせた。
「そうだよ!笑うってとてもいい気分なんだよ!」
舞は名案が閃いたように目を見開いて、人差し指を立てた。そして興奮気味にまくし立てた。
「ねぇ!そうだ!これから宇土たちが戻って来ても大丈夫なように、いつまでも笑って過ごせるように、強くなろうよ!」
「私のお父さん、柔道めっちゃくちゃ強いんだ!だからうちのお父さんに鍛えて貰おう!」
「うん!そうしよう!」
そういうと舞は机の上に置いてある、スマホを手にとってLightsで父親に連絡していた。
❁.
四時間目が終わり、昼休みになると、舞は
なんでも、中学からの友人らしい。
俺は、そんな三人が机をくっつけている後ろで、一人窓から景色を眺めながら、今度こそ何かが変わるんでは無いかと期待していた。
もし、自分が強くなったら、宇土や加藤から虐められなくなるんではないかと考えて胸を高鳴らせていた。
桜が綺麗だった。
❁.
帰りのホームルームが終わると、舞は振り返って嬉しそうな顔をした。
「朝の件なんだけど、いいよだってさ!だから、明日、朝の十時に
「遅刻しちゃダメだからね!」
そういうと、手を振りながら教室を出ていった。
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