第4話

桜の精霊


十思はDream planを決行するために、ネットで消費者金融から借金をした。


その金で探偵を雇うことにした。


最初の復讐相手は七尾奏音ななおかのん

七尾奏音は高校時代に俺の彼女だった舞を自殺に追いやった張本人である。


そんな舞と出会ったのは、高校の入学式で高校の正門にはピンク色の雨が風と一緒に踊っている。


俺はそんな風景を眺めて、何かが変わるんでは無いかと胸に希望を持って、校内に足を踏み入れて、入学式が行われる体育館に向う。


体育館の前で肩を叩かれた。


「よう!またよろしく!サンドバック君」

叩かれた肩の方を向くと、小中と俺を地獄に突き落とした張本人の宇土正真うどしょうまだ。


不敵な笑みを浮かべ、顔をこちらに向けて言ってきた、全身の毛が逆だった。


「…」

俺は顔を引きつらせてただひたすらに立ちすくむことしか出来なかった。


「それじゃ、また明日」

ニヤニヤしながらそう言って体育館の中に入って行った。


俺は吐き気を催して体育館の裏へと走り吐いた。


「大丈夫?」


後ろから声がしたが、口元は酷く汚れているし、入学そうそう嫌われるのが、怖かったので後ろを振り向かずに返事をした。


「大丈夫です……」


彼女は俺の前に回り込んで、ポケットから可愛らしい花柄のハンカチを取り出した。


「これ使って」


「大丈夫です…本当に大丈夫なのでほっといてください」


「お願いします……」


「そうも行かないんだよね…」

彼女は苦笑いをしながらそう言った。


「私のお父さんね、警官なんだ、だからね、昔から困っている人がいたら助けてあげなさいって言われてるんだよね」


「あとね、このハンカチ、もう捨てようと思ってたの汚れてきたし…」


そう言っていたがハンカチは新品のように綺麗だった。


「だから遠慮しないで使って」


そう言って俺に再度ハンカチを差し出した。


十思は顔を上げて彼女の顔を見た。


彼女は透き通った白い肌に、触ったら溶けてしまいそうなサラサラの髪を風になびかせ、微笑みながらこっちを見ていたが、その瞳には校内で咲き乱れる桜が映り込むほどに美しかった。


「どうしたの?」


「え……何がですか?」


十思の目からは、雪解け水のように清らかな水滴が静かに頬を伝っていた。


「だって泣いてるじゃん」


手で目元を拭うと確かに濡れていた。


「す、すみません」


十思は目元を腕で隠しながら、また俯いた。


十思は生まれてからこの方まで優しさに触れたことがなかった。


両親が蒸発する前でも、両親からは何で生まれて来ちゃったかしら……速く居なくなればいいのに……などと言われ酷い扱いを受けて何度か家でをしたが、問題になるのが嫌だったのか、父に連れ戻された。


そんな経験しかなかったので、驚き、感動、嬉しさ、安心などいくつもの感情が十思の心の中で合成されていた。


「へんなの」


彼女はまた微笑みを浮かべそう言った。

「とりあえず、これ使ってよ」


彼女は十思の左手に無理やりハンカチを握らした。


「自己紹介まだだったね」


「私、佐々木 ささきまいって言うの!同じクラスになったら、よろしくね!」

元気よくそういうと舞は体育館へと向かっていった。


舞からもらったハンカチはほのかに暖かくて優しい香りがした。


❁.

気分は舞のおかげで、落ち着いていたが、宇土のことを思い出すと、また吐きそうになったので、保険室で休もうと思った。


一瞬、家に帰ろうとも思ったが、祖父母たちに虐げられるのは、嫌だった。


昇降口から校舎の中に入ると、大きな下駄箱が立ち並んでいて、奥には二階へと登る階段があった。


中は薄暗くひんやりとしていたが、階段にある窓から差し込む日差しが入り込んでいて、とても幻想的だった。


今日は新入生の入学式があるため在校生は休みになっていたため、校舎内は静かだった。


スーツに身を包んだ先生らしき人がこちらに向かって話しかけてきた。


「あれ、新入生の子かな?」


「どうしたの?」


「少し体調が悪くて…」


「あら、可哀想に…保険室連れていってあげるね」

そういうと保険室に案内してくれた。


保険室は昇降口を右に曲がって突き当たりまで行ったところにあり、途中には職員室や校長室があった。


案内してくれた先生が保険室の扉を二回ノックすると、中から若い女性の返事が聞こえてきた。


吉野よしの先生、この子、体調悪いらしくて、休ませてあげて欲しいんですけど、いいですか?」


「わかりました」


案内してくれた先生はそういうと、体育館の方へと向かって行った。


保険室の中は消毒液などの匂いがした。


部屋の真ん中には、丸いテーブルがあり、テーブルの上には、傷口を消毒するために使う道具などが銀色の入れ物に入れてあった。


あとは、生徒が保険室を利用した時に書く紙などが、置いてあった。


奥にある窓からは、桜の花びらが咲き乱れる景色が見える。


吉野と言われていた人物は、白衣がとても似合う理系女で髪はポニーテールにしていた。


吉野はカーテンを開けながら言った。


「入学そうそうに体調崩すなんて災難だったね」

「はい……」


少しでも、体調悪く見られたいので、俯きながら、小声で返事をした。


「ちょっとこっちで休んでて、私が入学式でもらう資料とか持ってきて来るから」


「…ありがとうございます」


吉野も保健室を出て行くと、静かになり、遠く離れている体育館でやっている入学式の音が小さく聞こえてきた。


そんなことを思いながから、ベットの上に寝そべって、舞のことは思い出して、頬を赤く染めた。


しばらく経つと吉野が戻ってきた。


「起きれるかな?」


そう言われて、体を起こすと吉野が資料を渡してくれた。


「その資料に一通り目を通しといて!詳しくは明日担任の先生から説明すると思うから」

「わかりました…」


1番上には各クラスの名簿が書かれていた。


十思は四組になった。四組には、最悪なことに宇土がいた…だが、舞もいる。


嬉しさ半分、恐怖半分と言ったところだった。


「家族の人とかに向かいきてもらう?」


「いえ、大丈夫です」


「もう少し休んだら、1人で帰れそうです」


「それならいいんだけど」


十思はそういうと入学式が終わって生徒が居なくなるのを保健室で待っていた。


1時間ほど待っていると、外から音がしなくなったので、そろそろ帰りますといい、保健室を出た。


十思は正門に咲く桜を見ながら呟いた。


「舞さんは桜の精霊のようだったな…」

十思は明日が少し楽しみになった…







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