05 さあ、冒険…だ?

取り敢えず、冒険に出発!…の前にやることが有るようです

2021/11/03 インベントリをアイテムボックスに統一

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- アン、冒険に出る前準備! -


「さぁて…出遅れまくってるけど、いよいよ冒険に出るぞ!」


周囲の微笑えましい視線とか頑張れ~って応援とか聞こえてくるんだけど、取り敢えずスルー! 聞こえない振り!!


とはいえ、準備も必要だよね!…ってんでアイテムボックスをチェックします。


着てる装備してるのは、


E 粗い布の服

E くたびれた簡素な皮の靴


…の2点のみ。一応腰には布のベルト、下半身には半ズボンを履いてるんだけど服の一部とみなされてるみたい。下着は…どうなんだろう? 余り往来で確認するのも恥ずかしいから見ないけど。ブラジャー?…この見た目の年齢で付けてるとはとても思えないけど(第二次性徴来てない見た目だし…)


アイテムボックスの中身は…


1000GOLD

ギルドカード最下級ポーション×3

支度金2000GOLD


とある。


「あれ?…何でお金…ゴールドが2つあるんだろ? ていうか支度金って何だろ?」


「それはな…」


「うわびっくりした!!!」


PC画面のアンが跳び上がってオーバーアクションで驚いています。ちなみにアイテムボックスを1人称視点…つまりバイザーを介して見てたわたし自身も超びっくりです!…つか心臓に悪いからいきなり話し掛けるの止めて欲しい…


「おお、驚いた」


「お、驚いたのはこっちだよ!…っとにもう、何の用なの?「ギリアムさん」」


「あれ? 俺、名乗ったっけ?」


あ~、そーいや名乗ってない気がする。あっちはわたしの身分証を見て知ってるんだろうけど…不味ったかな?


「まぁいいか。どーせダイアナから聞いたんだろう?…あぁ、ダイアナってのはあの女医な。聞いてるかも知れんが世話になるだろうから知っておいて損はない」


むう、聞きもしないのに答えてくれたわ…まぁいっか。


「でだ、支度金ってのはギルドからの初心者サポートシステムで至急されてる金だ。序盤は何かと入用だからな。それと、これだ」


画面とバイザーに、


〈トレードの要請が来ています Y/N〉


…とメッセージが表示された。


「えっと、これは?」


いや、「トレード」…つまり、物やお金のやり取りの要請が来てるのはわかるんだけど、いきなり投げられたので訊いてみた。


「いやな、先の不手際でお前さんのサポートをしろっていわれてな…取り敢えず最初に何が必要か考えたんだが…。お前さん、装備品は何も持ってないだろう?」


このおっさん、ぶっちゃけ過ぎでしょ。…まぁ、序盤は服と靴、それにお金と身分証しか持ってなかったみたいだから装備品は有難い。初期所持金と追加の合計3000GOLDでどの程度揃えられるかわからないし…。最低限の武器防具を貰って、残りを消耗品に充てられるだけでも相当な助けになると思う。


「えぇ、まぁ…」


取り敢えず肯定する。おっさんは「そうだろうそうだろう」と、やたら嬉しそうなんだけど…はっきりいってうざい。


「取り敢えず受け取れ」


いわれるままに「Y」をぽちっと指先でつつく…のではなく、コントローラーで選択して決定ボタンを押した。フルダイブしてたら目の前に浮かんだ選択肢を指で突くんだろうけどねぇ~。


「…あれ?」


トレード窓が閉じたけど、それっきり目に見えた変化が無い。


「あぁ、まだトレードしたこと無いのか。説明書とかチュートリアルを飛ばす口だろう?」


おっさんに図星を突かれ、「うっ!?」とうめく。


「がはは! まぁわからんでもないがな?」


NPCにもわかりますか、わかっちゃいますか…ていうか、高性能過ぎるだろ!


「取り敢えず、アイテムボックスを見てみろ」


いわれるがままにメニューを開いてアイテムボックスを見てみる。って、さっきからそればっかだな…。


「…をを!」


そこには、幾つかの装備品と消耗品、道具類が入っていた。


「ていうか、こんなにいいの?」


おっさんを見上げて訊く。幾ら何でも過剰サービスじゃないかと思ったのだが…


「何、気にするな。ギルドの倉庫に在った廃棄寸前のアイテムや俺やダイアナ、他の連中のお古がメインだからな!」


ここぞとばかりに在庫処分ですか?…いや、まぁ、序盤も序盤だから助かりますけど!!


「…有難う御座います」


う、思わず平坦な声になっちゃった。取り敢えず頭も下げてるけど変に思われなかったかな?


「気にするな。使わなくなったら、後から始める後輩たちに渡してくれればそれでいいさ」


「あ~、そうすれば無駄が無くていいよね。耐久が心許無いから、それまでもちさえすれば、だけど…」


「…そうだな」


…何その間。取り敢えず、アイテムボックスの中で一番上にあった「壊れかけの杖」をタップしてプロパティを見てみる。あ、プロパティを見るってのは所持品の簡単な仕様や現在の性能をチェックするって操作ね。他人の所持品は見た目から推測するしかないけど、自分の所持品と確定した物で鑑定済みのアイテムはこれで詳細が確認できるの。まぁ、圏内などの落ち着いた場所でしかできないけどね?



壊れかけの杖

----------

攻撃力…1~2(2~4)

魔 力…1(4)

耐久力…2/24

備 考…壊れかけの杖。何度か敵を殴ったり魔法を発動すると使えなくなるだろう。※()内の数値は本来の性能値となる



え~と…何か意味がわかんない所があるなぁ…


「…じゃ、俺はこれd…ごはっ!」


さり気なく去ろうとするおっさんの足を引っ掛けて転ばしてマウントを取り、額に魔力を込めた手の平を当てる。それも、完璧な無表情で。


「な!」


「何しやがるじゃなくて。質問があるんだけどいいかな?」


なるべく落ち着いた表情で問い掛けたんだけど、おっさんの顔から表情が抜け落ちた。あれ?…まぁいっか。


「えっとね、ここの数値なんだけど…」


不明な点が幾つか有ったんで質問する。おっさんはすっかり大人しく…いや、元々暴れてなかったんだけど…こちらの質問に答えてくれた。解放した時、何か新品と交換するか訊いてきたけど、丁重に断わった。これ以上貰ってばかりだと他の人に悪いからね!



- おっさんギリアム少女アンに圧倒される -


「サポートを強化しろっつーてもなぁ…俺たちはギルドの敷地から外に出られないんだし、この中でできることなんぞ限られてるっつーのに…お、そうだ」


確か、訓練場で廃棄寸前の装備品や期限ぎりぎりのアイテムなんかは廃棄倉庫に放り込まれてたよな。あれなら持ち出しも許可されていた筈だ。よく全損して装備品や所持金を失った冒険者に与えてもいいと規則に有った筈だ。


「…あったあった。嬢ちゃん向きの物は…これとこれと…これなんかも使えるかも知れんな」


廃棄倉庫から幾つか見繕ってみる。装備品以外にも、ぎりぎり使えるポーション類も見つかった。別に飲むと腹を下したりとかは無く、回復量が劣化により少ないとかのデメリットしかない。下手をすると、飲み水と変わらないという場合もあるがな。


「う~ん、他にも何か無いかなぁ…あ、そうだ」


同僚たちにも何か不用品が無いか聞いて回る。何、捨てるには勿体ないが、まだ使える不用品があれば提供してくれと聞いて回っただけだ。対象が小柄な少女という条件で聞いて回ると、意外にも女性の同僚から提供品が結構集まった。「中は絶対に見ないように!」と釘を挿されたがな。何でだろうか?…まぁいい。彼女に有意義な物だと信じてそのまま渡すだけだ。


「いいのか?…そりゃ今日始めたばかりの子だがよ」


ダイアナからも物品と小遣い程度だが現金…はダメだが魔石の提供があった。魔法使いをするなら必要だろうということだが。


「いいの。あの子、また無理して倒れたら困るでしょ!」


とのこと。魔石は魔力を貯めておけるアイテムだ。例えば、魔石スロットのあるベルトなどに嵌めて腰に装備しておくと、MP最大値が嵩上げされてより強い魔法を行使することができる。専用のスロットがある魔導具の装備品が無いと意味が無いがな。


「だがな、嬢ちゃんはそんな高価な装備品は持ってないと思うぞ? ギルドの廃棄倉庫にもそんな物は無かったしな」


ダイアナは抜かりないと得意げな顔でもう1つ差し出してきた。


「大丈夫、抜かりは無いわ! これも一緒なら問題無いでしょう?」


…と、古ぼけた腕輪を見せる。丁度魔石が嵌りそうな穴が開いている。


「おお、これならこの魔石を嵌めて使えそうだな」


「うんうん。魔石は嵌めないで別々に渡すのよ? ちゃんとお店で加工して貰って装備品にして貰ってから装備しないと、どうやって装備するとか学べないし、ね?」


完成品としてドロップするアイテムは少ない。大抵はバラバラで入手し、自分で調べてどうやって使えるようにするか学ぶものだ。人に聞いてもいいし、店などで鑑定料を払って調べて貰い、また別の店で手間賃を払って組み立てて貰って完成品とする…ということでもいい。情報はタダでは無いし人に依頼して貰うにも金は掛かる。


「そうだな。最初だし、どうやって使えるようにするか、くらいは教えても構わんのだろう?」


「えぇ、勿論。でないと、売り飛ばされちゃうかも知れないし、そうしたらショックで…ギリアムの首を絞め上げちゃうかも、ね?」


ダイアナの顔が悪鬼の如く豹変しかけたので、慌てて「だ、大丈夫ちゃんと教えるから!」と叫びながら医務室を逃げ出したのは…まぁいいだろう。



ギルドを出たら、まだ敷地内で立ち止まっている嬢ちゃんを見つけた。


出入り口を出てもすぐギルドの敷地外になる訳ではなく、ちょっとした広場を抜けて大通りに出ると敷地外扱いになるって寸法だ。



「あれ?…何でお金…ゴールドが2つあるんだろ? ていうか支度金って何だろ?」


と、何かを覗きながら独り言を呟いているのを発見した訳だ。


「それはな…」


と、説明しようと声を掛けたのだが、


「うわびっくりした!!!」


と、ぎゅんぎゅんと左右を振り向いて驚きまくっている。いや、背後から声を掛けた俺も悪かったんだが…。


「おお、驚いた」


…我ながら棒読みだなぁとは思ったが、一応驚いた風に反応してみた。


「お、驚いたのはこっちだよ!…っとにもう、何の用なの? ギリアムさん」


う~む、心底驚いたようだな。胸に手を当てて顔を真っ赤にして怒っているようだ。すまんなぁ…ってあれ?


「あれ? 俺、名乗ったっけ?」


記憶が確かなら、まだ自己紹介はしてない。あの時の嬢ちゃんは正常ではなかったからな。自己紹介する間も無く、再び昏睡状態に陥っていた訳だし。


(身分証を見ているから、名前や出身地は知ってはいるんだがな…)


多少不公平かとは思うがな。


「まぁいいか。どーせダイアナから聞いたんだろう?…あぁ、ダイアナってのはあの女医な。聞いてるかも知れんが世話になるだろうから知っておいて損はない」


昏睡状態から戻れば、真っ先に会話をするのはダイアナだろう。その時、彼女から聞かされているんだろうと思った訳だ。彼女の名前もその時に聞いてるとは思うがな。お節介かも知れんがついでに話した訳だ。


「でだ、支度金ってのはギルドからの初心者サポートシステムで至急されてる金だ。序盤は何かと入用だからな。それと、これだ」


さっきまでかき集めたり渡してくれと受け取った物をまとめて1つにして、アイテムトレードを申請する。これから冒険に出る所なら丁度いいと思ったんでな。この機会を逃すと、次はいつ出会うか不明ってのもある。


「えっと、これは?」


目の前にトレード申請の表示が浮かんで来たので訊いて来たんだろう。声色からトレードの言葉の意味ではなく、何でトレード申請したのかを不思議に思って訊いて来たのだろう。


「いやな、先の不手際でお前さんのサポートをしろっていわれてな…取り敢えず最初に何が必要か考えたんだが…。お前さん、装備品は何も持ってないだろう?」


ふた呼吸くらいの間を置き、


「えぇ、まぁ…」


と返事が来る。俺は思惑通りだと首肯し、


「取り敢えず受け取れ」


と返す。おずおずといった感じで「Y」が選択されてトレードが完了する。


「…あれ?」


恐らく、トレードの選択肢が閉じて無反応のままなので困惑しているのだろう。


「あぁ、まだトレードしたこと無いのか。説明書とかチュートリアルを飛ばす口だろう?」


と、ニヤケながら突っ込むと、


「うっ!?」と呻く嬢ちゃん。どうやら図星のようだ。


「がはは! まぁわからんでもないがな?」


今までに似たような初心者を何人見たと思っている?…まぁ、中身が低学年らしい小生意気な学生なんかがメインだったがな。


「取り敢えず、アイテムボックスを見てみろ」


いわれるがままにメニューを開いてアイテムボックスを見る仕草を始める。こちらからは何も見えない場所を指が動いて目が追っている…といった感じにしか見えんが、いわれた通りにしているのだろう。急かしてもしょうがないので黙って待っていると、


「…をを!…ていうか、こんなにいいの?」


と、こちらを見上げて訊かれる。少々不安げに目が揺れているが、安心させるようにいい聞かせる。


「何、気にするな。ギルドの倉庫に在った廃棄寸前のアイテムや俺やダイアナ、他の連中のお古がメインだからな!」


…と話していると、途中から段々呆れの表情に変わっていく。在庫処分とか断捨離の処分先にされたの?…といった感じに。いや、そういうつもりはないんだがな。


「…有難う御座います」


平坦な声で礼をいわれた。…礼をいうってことは少なくとも怒ってはないんだよな?…多分。


「気にするな。使わなくなったら、後から始める後輩たちに渡してくれればそれでいいさ」


「あ~、そうすれば無駄が無くていいよね。耐久が心許無いから、それまでもちさえすれば、だけど…」


「…そうだな」


間髪無くいい返される。ぱっと見、如何にも壊れかけの装備品が多かったからな…致し方ない。ちょっとしょぼ~んとしながら、ここから離脱する隙を伺ってみる。


「…じゃ、俺はこれd…ごはっ!」


さり気なく去ろうとすると、振り返った瞬間に足を引っ掛けて転ばされた!…仰向けに倒れると見事なタイミングでマウント…胸板の上にどすん!と座り込まれて額に手の平を当てられる。それも、視覚化する程強大な魔力の塊を手の平に具現化しながらだ…だが、恐ろしいのはそこではない。完璧な無表情顔でそこまでやってのけているのだ。いつ、魔力弾を発射して頭を吹き飛ばしてもおかしくない。


「な!」


「何しやがるじゃなくて。質問があるんだけどいいかな?」


すげー無表情で落ち着いた声で何か問われた。俺、そんなに酷いことしたっけ?…あ、俺、ここで終わるのカナ?…ちろりと左右を見ると、見ない振りして急ぎ足で通過していく冒険者が沢山…。中には「見ちゃいけません!」っていいながら子供の手を引く一般人NPCのお母さまが…あ、俺、人生…いや、NPC生詰んじゃったカモ…


「えっとね、ここの数値なんだけど…」


手の平を額に当てられたまま、質問に機械的に答える俺。開放されるまでの1時間で、寿命が尽きるかと思ったのは間違いないデス。俺の中の何かは、次のメンテで全取っ換えされそうデス…ハイ。



- 運営さんズ ギリアムの冥福をお祈り申し上げます -


「お~い、ギリアムのAIのメンタルがマイナス方向に振り切ってるんだけど、何があった?」


「さぁ…」


「あ、さっき新人のプレイヤーにあれこれ質問受けてたみたいだな。公衆の面前でゼロ距離で接してるのを他のプレイヤーに目撃されまくってたからじゃね?」


「ゼロ距離って?」


「えーっと…「地面に押し倒されてマウント取られて」って状況だな」


「え、何その状況…」


「相手のプレイヤーってどんな容姿?」


「んと、「小柄で可愛い少女」だな」


「あ~」


「成程。お巡りさん案件か」


「お巡りさん、こいつです!」


「ぶははw」


「やめろ。俺なら自殺するかも知れん。社会的に抹殺去れそうだし…」


「そうだな。ギリアムの心情を考えると…どうする?」


「折角ここまで育ってるんだ。消すのも惜しい。その時間の記憶を抹消して復帰させとけ」


「うわ、鬼」


「まぁ、あそこまで育ってるからな。他のはまだそんなに育ってないし」


「んじゃ、仰せのままに…ぽちっとな」


「ひで~w」


「さて仕事仕事。あ、あれの案件どうなってる?」


「あ~…」


━━━━━━━━━━━━━━━

書いてて楽しいけど、当事者としてはひでぇ扱いだ(苦笑)


・粗い布の服 C-- DUR:- DEF:1

・くたびれた簡素な皮の靴 C-- DUR:- DEF:1

・壊れかけの杖 C-- DUR:2/24 ATK:1-2 MATK:1

・杖 C-- DUR:24 ATK:2-4 MATK:4(壊れかけの杖の正常値)

※DUR:-…耐久値無し(=不壊属性)

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