02 運営さん側、その1

運営側の悩み、NPC・プレイヤーの悩みなどなど

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- 新規プレイヤーを迎える運営さんの苦労 -


今日もまた、1人の新規プレイヤーがASOを立ち上げてゲームサーバーに接続してきた。が、簡易説明を読んですぐさまキャラメイキングに入ったようだ。


「買ったばかりのゲームだし、すぐに遊びたいよね」


と、微笑ましさすら感じとっていたんだが…。


あぁ、僕は運営会社に勤める者だ。名前は少々勘弁して欲しいが…ナビゲーターAIの中の人を演じることもあるから…「ナビ」と呼んで頂ければ結構だ。先程、ASOを起動した新規購入者がサーバーに接続して来たのでサポートせよとの上からのお達しで監視…いや、観察しているというだけだ。


「これで担当観察者プレイヤーが100人近いんだけどな…勘弁して欲しいよなぁ」


どこのブラック企業だよと思わなくもないが、まだ若くて体力のある僕に観察対象が押し付けられてまうのも仕方ないだろう。他の者は抱えている担当者が多過ぎて、過労で倒れてしまうんじゃないか?…と危惧する者もいるのだから。


「早いとこ、担当係員を増やして欲しいんだけど…」


そう上に上申するが、なかなか責任をもって仕事をしてくれるVR適性をもつ人員が集まらないらしい。若い人が望ましいが、そーゆー奴に限って他の会社に取られたりVRゲーム中毒だったりでこの仕事に向いてないことが多いとか…特に、責任問題の関係で。


「プレイヤーには若い女の子とか居るからな…。特にVR機器管理の問題で個人情報の入力は必須だし、そういう問題のある連中に漏れたりしたら社会問題になるし…難しいよな」


なんてことを考えてたら、先程のキャラメイクを優先していたプレイヤーがこんなことを呟いていた。


『声だけサンプリングしたいから、ヘルメットを被ってマイクに向かって喋れと…別に文字会話だけでもいい気がするんだけど』


喋ってるってことは普通に喋れるし聞くこともできる健常者だよな。文字情報だけだとプレイに差し障る訳じゃないけど色々と不便なこともあるんだよな…。僅かな音とか音の遠近感とか…って、それはAギアのスピーカーで聞き取れるから問題は無いか。ん~…コミュニケーションには若干問題が出るかな?…相手が文字台詞だけでしか話せないとなると、心無いプレイヤーが相手を貶すことがあるんだよな…つ|(ピー)とかな…。


「よし」と決意し、介入することに決める。快適なプレイを推進する為にも必要な事柄だと信じて。



- ナビさん、介入開始 -


〈あのぉ~…〉


流石に自分の声そのままではなく、キャラメイキングで使われているナビゲーターキャラの声を当てている。いきなり大人の男がスピーカーから聞こえてきたら通報もんだろうし。


尚、プレイヤーはAギアを装着してないようなのでそのままでは殆ど聞こえないだろうと思い、未装着でも会話できる程度の音量に調整しておいた。


『うわびっくりしたっ! 何々? どこから声が!?』


矢張り、いきなり声を掛けるのには少々無理があったかな…。物凄くびっくりしてるようだ。いきなり通報されないといいんだけど、大丈夫かな…。


〈ここです。ASYURAの内蔵スピーカーから失礼しています〉


取り敢えず、声の出元を説明する。ナビゲーターの声は中性的な声だし、少しでも安心してくれるといいんだけど…。できるだけ丁寧な声掛けを心掛けてはいるんだけどね。


〈サンプリングした声はご本人とわからないように変調して話せますし、ご希望でしたらアクセントや話す癖も微調整したりもできます…若干のラグはありますけど。文字のみのコミュニケーションですと色々と不都合が有りますよ?…戦闘中ではログの文字を読む余裕は無いと思いますし〉


と、ボイスチャットのメリットとデメリットをできるだけわかり易く説明してみる。これで納得して貰えると助かるんだけどな…どうだろう?


30秒経過。


う~ん…何か悩んでるというか、心の叫びが聞こえて来るような。そういや、夜中に遊んでて思わず絶叫すると親が怒鳴り込んでアシュラを取り上げられたって相談しに来た中学生が居たっけ…。そら夜中に雄叫びを上げられたら近所迷惑も甚だしいよな…てか、VRフルダイブしてても雄叫びってどんだけ…大丈夫か?うちの製品…調整が甘いなんてもんじゃないんだが(流石に、夢見てて現実でも体を動かすような精神力があると、ASYURAでも抑えきれないって開発部の者が愚痴ってたっけ…。それすらも抑えることができない訳じゃないが、体に負担が掛かり過ぎるからやってないとかなんとか…)。あぁ~…ASYURAもASOもうちの会社で作っている訳なんだけどな。



あれから30秒程経過。まだ返事が来ない…と。悩むのもいいけど早く遊びたいだろうし、こちらから妥協案を出してみるか。


実はこれASYURA、医療関係に回す分にしか機能開放してないんだけど…専用の生産ラインを確保できてないからゲーム向けの奴にも搭載してるんだよな。いや、分けて生産するとコスト面でも色々あるんだわ…ま、それはともかく、機能は封印してあるから通常使用では動作しないし念押ししておけば黙っててくれると思うけど。


ちなみにゲーム機としては価格は高いんだがそれでも赤字も赤字。売れば売る程真っ赤っかだ。比べて医療機器としては安いんだが、そちらで埋めさせて貰ってトントンって所か。ここ数箇月、市場に出回ってなかったのは無骨過ぎるデザインの刷新もあるが、医療関係に卸す分に掛かり切りだったってのもある。そうでもしないと、会社の資金がショートして倒産…となっていただろうしな。



〈…わかりました。ではこうしましょう。ASYURAは脳内の思考を読み取って発声させることも可能です。これは身体障碍者向けで発声が困難、若しくは声帯除去をされていて発声ができない人が利用する機能です。その機能を使えば、ゲーム内で「創られた声」で会話することも可能です。勿論、夜中に叫んでも、ご両親には聞こえないと思いますよ?〉


…何か沈黙してるな。大丈夫かな?…一応、これなら身元バレの可能性も減るし絶叫して大目玉って事故も防げるし。特にこの子はマニュアルモードでプレイするみたいだから必要不可欠だろう。うっかり自前の口から絶叫を上げた場合は…そこまでは流石に責任を持てないけどな。


(本当はフルダイブで遊ぶ方が楽しめるんだけどね)


妥協案でもダメかな?…まぁ人それぞれだからな。押し付けも良くないかな…。


〈どうされますか?…勿論、最初は文字チャットだけで済まして、後で気が向いたら…でも構いませんが〉


押し付けも良くないだろうと思い、更に提案をしてみる。暫く待ってみると、次善策の「創った声によるボイスチャット」を選択されました。


(自分の声に自信が無いの、かな? 結構可愛らしい声だと思うんだけどな?)


ま、人それぞれですし他人が何をいっても仕方がないことでしょう。


ということで、設定を1つ確定。後は、ゲームの序盤の遊び方や初心者でも安心して使える狩場。ちょっとした小技なんかの情報を所望してきたのでアドバイスし、最初は冒険者ギルドへ冒険者登録をすることを是非にとお勧めしておきました。仲間に誘われてゲームを開始するなら兎も角、ソロならそれが一番楽で定番でしょうから。


「それにしても、フルダイブじゃなくてマニュアルモードでプレイか…」


VRMMORPGなのでバグの検証やテストプレイは当然フルダイブ前提で行っています。ハーフやマニュアルモードではロクにテストしてないかも知れません。


「…一応、上に報告してちょっとづつでもいいから追加テストして貰った方がいいよな…」


そんなことをしたら、フルダイブ環境の方で一杯一杯なのに、テストしてられっか!…って怒鳴られそうですが。


「プレイヤーからクレームが来るよりはマシだと思うんですけどね…」


取り敢えず、キャラメイクを終えた彼女がログインしてゲーム開始した様子を横目に、僕は上司に連絡を取るべく受話器を手に取るのでした。


上申した結果ですか?…音沙汰無しでしたよ。多分そんな暇も無いんでしょうね…。



- NPC先生の苦悩と能天気なプレイヤー -


ここは魔法使いの卵を訓練する魔法訓練所の一角だ。私はここでNPCの魔法指導員として働いている。


何? 自分がNPCとして認識しているのがおかしいだと? 理屈をいっても仕方がない。そういうものだと刷り込まれているからな。おかしいもなにもない。


「ん?」


見るからに部外者、それも村人の子供が近寄ってくるのが見える。


「こらこら、部外者は近寄っちゃダメだよ?」


と、一応優しく諭す。相手は子供だからな。何度いっても出て行かないなら厳しく指導するのもやぶさかではないがまだ1回目の注意だ。私もそこまで鬼ではない。


すぐに謝って出て行くと思ったんだが、


「えっと、見学だけでもさせて下さい。邪魔はしませんから!」


と、頭を下げて懇願されてしまった。


規則では、部外者は近寄らせないことと決まっている。一般人…この場合村人だが…は、魔法耐性が低い。万が一攻撃魔法を喰らってしまうと死に至る可能性が非情に高い。ましてや相手は子供だ。弟子たちの練習しているファイヤーボールを受けてしまった場合、即死に至る危険がある。


「い~んじゃないですか? 別にここでの指導だって金を取ってやってる訳じゃないんでしょう?」


弟子の1人が気安くそんなことをいって来る。いや、弟子といっても正式な弟子ではなく、ギルドの事務で一定期間、訓練場で魔法の訓練をするという契約の元に師事を受けているだけの、魔法使いの冒険者なのだが。


「しかしだな…」


規約の内容を話して拒否をしてみるが、


「何かあったら責任持ちますから」


と、取り合おうともしない。残り時間もそれ程無いし、こいつもそれなりに上達して来ている。尚、まだ居残り練習をしているのはこいつ1人で、他の冒険者は既に引き上げている。


「…しょうがない。後5分、それまでだけだからな?」


時計を見て、終了時刻まで5分と確認してからそういい捨てる。


「ありがとうございます!」


深く頭を下げた村人の子は近くのベンチに座り、弟子の魔法練習の見学を始める。


弟子は見学者ができて嬉しいのか、ファイヤーボールの発動に集中し始める。毎回これくらい真剣にやって欲しいものだが…。


「ふむ、今回のはまぁまぁだな…」


そう独り言を呟いていると、横から同じように呟く声が聞こえてくる。


「あ…これが魔法、なのかな? 何か見えた気がする…」


何か?…まさか、たったの1回で練り込んだ魔力を可視化したというのか?…バカな…有り得ない。


…の身体の中にモヤみたいな物…魔法を撃とうとすると…に伝わって行…に1箇所に集中…へと放たれて…


よく聞こえないが、次弾のファイヤーボールの為の魔力を練る所から放つまでの過程を声に出して纏めているような…あり得ん!


…が魔力…奴で…るか呪文を唱え…に移動して圧縮…発現のキー…に向けて発…今見ていたのはファイ…ては威力が高かっ…


わなわなと身体が震える。今、私は何を目にし、耳にしているのだ…。唯の村人。それも子供が…たったの2回、魔法発動の練習を見学しただけで?…それも、見ただけで魔法発動の仕組みすら完璧に理解しただと?


「…有り得ない。ただの村人の子供が…絶対有り得ない…」


思考のループに陥っていると当の子供がベンチから立ち、礼をいって来る。


「とっても勉強になりました。どうもありがとうございます!」


私は「あぁ」としかいい返すことができなかった。


「あれ? もういいの?」


弟子が能天気に子供に話し掛ける。時刻は練習時間を過ぎており、後は帰るだけなのだろう。だが、その前に一言だけでもいっておかねばならない。


「あれには関わるな! 恐らく魔王の手の者に違いない! いいか、絶対に関わるなよ!?」


と。そして、呆れた目をして帰っていったあやつの表情が印象に残った。


「馬鹿じゃないの? このおっさん」


といった目が…くそいまいましい。最近の若者は…。



- 魔法使いのプレイヤー -


「アホか。あれはプレイヤーキャラだし、魔法を理解してるのだって、事前情報でも仕入れてたんだろ。βテストとかやってただろうしな」


ふぅ、と溜め息を吐いて練習完了の報告にギルドに入って行く。あ、建物の中って意味な。


「しかし、あの子可愛かったなぁ。魔法使い目指してるのかな?…くぅ、楽しみが1つ増えたなぁ…魔法少女とかやってくれるのかなぁ?」


能天気な魔法使いプレイヤーは、周囲の痛い目も気にしないで叫ぶのだった…。


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取り敢えずヒロイン以外の話しを忘れない内にカキカキ。NPCも独自思考で動いてるゲームです。殺せば居なくなるタイプじゃないですけどね(中の思考アルゴリズムや記憶パターンを変更して再配置され、別人として動きます)。ま、圏内で殺せる筈も無いですが(ぴこーん)

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